【再掲】

オタク票呼びかけた自民・山田太郎議員がついに当選! 前回参院選を振り返る

■対照的すぎた運動員たちの陽気さ

 対照的なのが選挙カーで、秋葉原中をめぐる運動員たちだった。揃いのオレンジのユニフォームに身を包んだ運動員たちは、いつも和気藹々としていた。選挙戦最終日は、連れだって飲みに行き、深夜までカラオケを楽しんだというから、一体感は本物だったと思う。その中でもムードメーカーになっているのは、力強いウグイスが印象的な稲葉であった。

 これまでも、いくつもの選挙戦を手伝ってきたという稲葉は、ほかの候補者陣営からも誘いがあった中で、山田の事務所を選んだ。「この事務所は、面白い」何しろ、選挙戦だというのに、回るのはほぼ秋葉原だけ。

 その特異な選挙戦を心底楽しんでいるようだった。事務所で休憩中に、若い運動員に「ちょっと肩を揉んでよ」とやるくらいの様子からも、短期間に気心の知れた関係へと持ち込んでいた。

 選挙戦最終日に、こんなことがあった。その日、自民党は秋葉原駅頭で安倍晋三首相が来て演説し、選挙戦を締めくくることを告知していた。そのためだろうか、ベルサール秋葉原前で演説する山田の様子を見ていても、早くから街のあちこちを私服の公安警察がウロウロとしていた。

 夜、事務所に戻ってから、運動員たちがお茶を飲みながら雑談している輪に入った。ふと、私があちこちに公安警察がいた話を口にすると、今野は「そうですねえ」と、首を縦に振った。ふと、稲葉にこういわれた。

「昼間さん、よく知ってますね」

「いや、私もデモで逮捕されるくらいまでは、やってましたから……」

「うわあ、この事務所、砂がついている人が多いなあ」

 そんな、自虐の混じった物言いで笑い話になる大らかさが、運動員の間にはあった。

 懐の深い紐帯を得て楽しげに運動をしているスタッフに対して、ボランティアとして集まった支持者たちは悲壮感と孤独を抱えているように見えた。

■支持者への不安が募った「襲撃」事件

 熱心さと共に、身に纏っているどこか暗い雰囲気。本当に、こんな支持者ばかりで大丈夫なのだろうかと思った。取材している私には、何か薄気味悪いものがまとわりついてくるのを感じていた。その多数のボランティアたちも、早々と証紙貼りが終わった途端に、事務所に集まることはなくなった。たまに、何がしかの差し入れを持って激励に来る人があるだけ。

 支持者が集まるのは、夜になって事務所から生中継されるニコ生の時間だけ。それも、山田の話を生で聞くのが目的で、集まった人同士で交流する風景は、ほとんど見られなかった。

 本当に、こんな支持者ばかりで山田はどう思っているのだろうか。私は取材を重ねるごとに、何か悪いモノに憑依されたかのように不安になっていった。

 一段と不安になる出来事があったのは選挙戦の後半だった。選挙戦も残りわずかになった7月3日の夕方、山田は秋葉原駅のラジオ会館近くに陣取り、演説をしていた。そこに、フラフラと歩く見るからに危なそうな雰囲気の男が現れた。

「山田うるせえ、ふざけるな」などと叫びながら周囲を徘徊する男。暑さのせいなのか酒でも飲んでるのか。とにかく関わり合いになってはいけないと思い、周囲で演説を聴いていた人も、その男から距離を取っていた。

 間が悪いことに、日暮れ時で、その姿が選挙カーの上にいる山田からははっきり見えなかったのだろうか。「ふざけるな」などと、明らかに危険な雰囲気で叫ぶ男に、山田はマイクを通して「何が、ふざけるなだ!」と怒鳴った。様子を見ていた人々には緊張が走った。

 だが、何度かボランティアに来ていた若い男性だけが、写真撮影に熱中していたのか、様子に気づいていなかった。「ああ、やばい……」と、思ったが遅かった。その男性に、フラフラと近寄った男は、手にしていた鉄扇で後ろから、こめかみのあたりを小突いたのである。

 痛みを感じて、男性は突かれたところに手を当てた。すぐに駆け寄ったが、大事ではなさそうである。すぐに、まだフラフラと歩いている男から距離を取った。あからさまな暴力に、目撃した人は血の気が引いていたが、山田は演説を止めることはなかった。

 そのまま数分が経過した。まだ、男はフラフラと選挙カーの周りをうろついていた。選挙カーの傍らにいた稲葉に聞くと「警察を呼んだのに、まだ来ない。警察が遅い!」という。稲葉の素早さに、尊敬の念を抱きつつ、ほかに人もいなそうだったので、私が近くの万世橋署まで走った。警察署前では、若い警察官が一人、暇そうに立哨していた。

「ちょっと、通報あったでしょ?」

「ああ、駅前の? 今、向かってますよ」

「いや、もう5分は経ってるでしょ」

「ですから、向かわせてますから。今、担当の者が、行きますよ~」

「だから、来てないって」

「あ、今、現着したと無線で~」

 出前の遅い蕎麦屋のような問答に呆れて、駅前に戻ると、ようやく1人2人と駆けつけた警察官が、男を確保しようとしていた。

 身柄を確保された男がパトカーで連行され、居合わせた人々は安堵していた。すぐにTwitterでは、この椿事が話題になっていた。山田が秋葉原で演説中に暴漢に襲撃されたとして。暴漢や襲撃というひとつひとつの言葉の力が、冷静さを失わせていた。

 演説が終わり、ニコ生の時間まで事務所で待っている支持者たちの間には、奇妙な熱気が漂っていた。

 その日のうだるような暑さは、間違いなく人の思考力を奪っていた。停滞気味の打開策のない選挙戦。支持者たちは、揺らぐ気持ちを隠すためにも、何かワーッと声を挙げたい気持ちになっていた。それが、事件のイメージをどんどん肥大化させていたのだ。

 山田がニコ生を始める時間になってからも、異様な空気は止まらなかった。どこにも冷静さはなかった。ふと、Twitterを見てみると、荻野のツイートがものすごい勢いでリツイートされていた。

<秋葉原駅前で演説中の山田太郎参院議員が、金属製の棒のようなものを持った不審人物に襲撃されました。警察が出動し、演説は再開された模様です。>

 その文章に添えられたのは、パトカーの写真。それは、その場に居合わせなかった人の想像力を、過剰にかき立てているようだった。増えていくリツイートの数は、その場に居合わせた者たちに、どんどん悪い熱を吹き込んでいた。

「ちょっと、やり過ぎじゃあないの?」

「いや、だってウソは書いてないよ」

 その荻野の言葉で、私は急速に熱が冷めた。みんな、暑いからといってやり過ぎじゃないのか。私は事務所を出て、近所にある大丸ピーコックに走った。カゴを手に取り、壁沿いにあるアイスクリームの棚へ。事務所には、何人いただろうか。数えてなかったけど、まあ構わない。事務所には冷蔵庫もあるのだから。そう思って、カゴにキンキンに冷えたかき氷系のアイスを手当たり次第に放り込んだ。

 重いレジ袋を抱えて、事務所にとって返すと、カメラを前にしゃべり続ける山田の姿を眺めている一人ひとりに、それを配って歩いた。「ありがとうございます」「いただきます」と、大抵の人はいう。

 でも、中に無言で受け取る人がいたのが気になった。別に、賞讃を受けたくて買ってきたわけではないが、最低限の言葉も発することができない、育ちを疑われるような人が、どうして政治や社会にコミットメントすることができるのだろうかと考えた。

 ふと、しゃべり続けている山田のほうを見ると、放送中にもかかわらず、

「いいなあ、みんなアイス食べて」

 と、うらめしそうな顔でいった。

 支持者たちの所作に、山田の心中はいかなるものだったろうか。

■興奮のない奇妙な選挙事務所

 事務所にいる時、山田はパーテーションの奥でスタッフにあれこれと指示を与えたりしていて、あまり姿を見せることはなかった。奥から姿を現すのはニコ生の時間。放送が終わり支持者たちが帰る時間になると、一人ひとりに握手をしてお礼の言葉を述べる。

 けれども、支持者たちに直接何かを指示したり、同席するようなことは、まったくなかった。社長の自分がいて、中間管理職のようなスタッフ、そして、指示されて動くボランティアたち。

 どこか殺伐とした工場のような空気を感じた。でも、効率はよかっただろう。山田にとって重要なのは、ネットを通じて自分の主張を、より多くの人に届けてもらうことだった。

 だから、証紙貼りや宛名書きのような仕事を除けば、支持者には事務所に集ってもらう必要がなかった。それよりは、スマホやパソコンを使って、山田の主張を広く呼びかけること。時間に余裕があれば、予め告知されている街頭演説の時間に集まってもらうことが重要だった。

 通例、選挙というものは、今後数年間の政治生命のかかったお祭りのようなものである。だから候補者の事務所というものは、朝から晩まで異様な熱気が漂っているものだ。真偽はわからぬが、毎日、興奮冷めやらぬ男女が乱行に走る事務所もあるという。そこまでいかずとも、祝祭的な興奮がない点で、山田の選挙戦は異質だった。一連の作業が終わった後、日中に事務所を訪ねると、中には静けさが漂っていた。

 そんな新しい選挙戦の手法を用いながらも、山田には何か絶対的な自信があるわけではなかった。自分の財布から、少なくない金額をつぎ込んでいる。秋葉原にこだわって借りた事務所も、短期故に足元を見られたのか、かなり高額。選挙カーや何やら、とにかくお金は出ていくばかりである。

 そして、たとえTwitterなどで「応援します」などといわれたところで、実際に投票してくれる数は未知数。何より、どこか頼りない支持者の無言の声は、より強く感じていたはずだ。スキャンダルで名が挙がっていた舛添が代表を務めていた政党。野党の皮をかぶった安倍の応援団。美人女優改め、妙なエコロジー生活や、大麻解放などの主張で、すっかり怪しげな人になった高樹沙耶も同じ名簿で立候補している等々、ネガティブな要素は無数。本当に山田は当選できるのか。そもそも、当選できもしないのに、なんで、こんなに頑張っているのか。早々と、沈みゆく船から逃げたしたり、保険をかける動きを、山田が見ていないはずもなかった。

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