薔薇族だった時代 〜編集部を去ることになった事件…35年目の告白〜

• ツイート
• 

撮影：津田広樹

　薔薇族カラーグラビアの津田広樹撮影作品で、珠玉の作品と言われていたのが、この『BODY TALK』だ。現役大学水球部員を撮影中にナルシストにしてしまった自信作である。その掲載号の薔薇族が世に出ているときに事件は起きた。

　35年間我慢してきたが、真実を記す。84年当時、薔薇族カラーグラビアをモデルスカウトから撮影まで任されていた私は、街で「薔薇族」と言うと即座に嫌な顔をされ、断られていた。困り果てて藤田竜氏に相談したところ、「バカね、薔薇族と言わずにモデルスカ ウトしなさい」という助言を受けた。心が痛んだが、私はそれを実行した。

　何事もなく数ヵ月が過ぎた。しかし、ある日新宿･伊勢丹前で偶然にも少し前に水着撮影をした男性モデルに遭遇してしまった。その男性モデルは、写真の使い道を私に詰めよった。私ははぐらかしたのだが、しばらくすると強面の男性が現れた。そしてそのまま私はある場所に、黒塗りの車で連れて行かれてしまったのである。強烈な表現はできないが、彼はそういう方達の事務所に属するモデル男子だったのだ。しかし、薔薇族をノンケが目にすることは皆無なPC無き時代だったので、その時点では水着写真が薔薇族に掲載されていたのは気づかれていなかった。

　身の危険を感じた。隠しきれなくなり、結局私は薔薇族のことを話してしまった。すると強面の方は今度は私を薔薇族編集部に連れていき、後楽園球場(現･東京ド ーム)で野球観戦中だった伊藤文學氏を球場アナウンスで呼び出した。それを聞いた文學氏は慌てて帰社した。このとき、文學氏と同行していた某男性専用旅館の社長がいたのだが、彼がモデルに「君、いま掲載されてるね」とポロリと言ってしまったのである。この一言で、事態が最悪に転じた。

　状況を理解したのか、その社長は初対面の私を激しく罵倒した。私が真実を言えずに困っていると、文學氏に「津田君は帰りなさい」と優しく促された。私はその場から解放され、断腸の思いで帰宅した。しばらくすると、藤田竜氏から電話があった。

「あんたが勝手にやった事だからね、 解ってるわね」

　そう言われた私には、薔薇族編集部を去るしか選択肢がなかった。挨拶にすら行けなかった。それがひどく辛かった。

　数ヵ月後、奇しくも新宿･伊勢丹前で自転車に乗った藤田竜氏に私は出くわし、「津田君の感性を失いたくないから薔薇族に協力して」と言われるに至る。私は人を憎まないので、 薔薇族に俳優の客演みたいなかたちで復帰をした。

　そしてときは流れ、藤田竜氏が薔薇族を離れて他界される約１年前に、なぜか藤田竜氏が気になり電話をした。私たちは世間話をした。どこか寂しげな声だった。厳しい人だったが、若輩な頃に幾つも学ばせていただき、心から感謝をしている。私の中でしこりだった35年前の「藤田竜氏事件」。これを書いたからもう忘れることにしよう。藤田竜氏に「和製COLTのようで素敵」と絶賛された津田広樹撮影作品『BODY TALK』を見ながら……。

　この作品を自らのTwitterアカウントで電子写真集にしてみたので、ぜひご覧いただけたら嬉しい限りです。
(下記をクリックして津田広樹Twitterを御参照ください)

【津田広樹プロフィール】
　いわゆる80年代アイドル全盛の時代にスチール撮影のみならず、その多才さを認められてグッズ等の企画発案にまでもマルチな才能を発揮したキャリアをもちながら、あらたなる新天地として当時の有力ゲイ雑誌であった薔薇族の出版会社に編集部員として転身。その後もさらにその非凡なる才能の昇華は衰えを知らず、グラビアや企画ページ等にも幅ひろく手腕をふるい、多くの絶賛を得るまでにおよぶ。そして1996年にはゲイ業界初の試みであった3D写真集付き映像ビデオ、ジャック･リードを発売し世に送り出した。
　さらにオリジナル競パン付きDVDの発売など革新を起こし続けるも、無断配信に苛まれ、昨年に全ての映像ソフトのレーベルを手離す。しかし長年ににわたり不変的な価値観を持ち続ける津田広樹の世界観は色褪せることのなく、その真価を現在も世に問い続けている。 

●津田広樹Twitter 
https://twitter.com/hk8efj4xx3zxkim