華山みおの物語探索 その62

『Girl』性に葛藤し、悩み続けた一人の少女がバレリーナを目指す姿に胸が熱くなる

 今回はルーカス・ドン監督の初長編映画『Girl』をレビューします。


 15歳のララの夢はバレリーナになること。しかしそれは簡単なことではなかった。彼女は男の体に生まれてきたから。それでも強い意志と才能、娘の夢を全力で応援してくれる父に支えられ、難関のバレエ学校への入学を認められる。夢の実現のためララは毎日厳しいレッスンを受け、血のにじむような努力を重ねていくー
 だが、初めての舞台公演が迫る中、思春期の身体の変化により思い通りに動けなくなることへの焦り、ライバルから向けられる心ない嫉妬により、彼女の心と体は追い詰められていく―。


 自分ひとりの人生の中では、知らない世界がとても多いです。だから小説や漫画、ドラマや映画の物語に触れることでたくさんのことを教えてもらいます。

 LGBTを取り扱う作品が増えたことによって「トランスジェンダー」の方たちについて知ることができました。私は当事者ではないので、物語や知識として知ったことから想像をすること、理解のために歩み寄ろうとすることができるようになりました。

 もちろん知ったからといってそれで全て分かるわけではありません。自分が同性だからと言って女の気持ちが全部理解できるわけではないのと同じことで、他人の気持ちを100%理解することなんてできないのです。

 『Girl』は、トランスジェンダーの少女・ララがバレリーナを目指していく中での葛藤を描く物語。だけど私はこの『Girl』は思春期のとあるひとりの女の子のストーリーだと感じました。極端に言えばよくある普通の思春期の葛藤を描いた物語です。

 トランスジェンダーだから起こった状況なのかもしれないけれど、誰だってセクシャリティの話を親とするのは気が引けるし、下半身を見せろって言われたら嫌です。自分の体について思い悩むこともたくさんあります。

 「マイノリティ」と付いてしまうけれど、日本だと13人にひとりがLGBTと言われている時代です(この割合も諸説あるようですが)。もうマイノリティだからと特別視ばかりしてフィルターをかけなくても、思春期の葛藤を描く作品は性別にこだわらなくても面白いものが出来るんだという素敵な前例になったと思いました。

 彼女が目指すバレリーナは、ただでさえハードルが高い。始めた年数が遅ければ遅いほどそれはハンデになります。そこにララの体は男性。筋張った手足の筋肉。女性のシルエットとは違う体でのレオタード。少しずつ負荷をかけて慣れさせるのが一般的らしいトゥシューズですが、ララの足はつま先で立つ練習をやりすぎて血だらけになります。テーピングで肌が荒れ、尿意を抑えるために汗だくになる練習でも水分をなるべく取らないようにするなど、彼女のバレエに賭ける想いが痛いほど伝わってきます。

 その努力が実を結び、学校に残ってもいいと言われたときの喜び。そのために努力したステージを客席で見る絶望。何度も訪れる上手くいかない葛藤が、私も知っているそれに近くて、トランスジェンダーだからとかそういうのじゃない、共感する部分がありました。

 彼女のバレリーナの道は問題も多いですが、その分味方も多いです。お父さん、弟の家族がそうです。学校から手を差し伸べてくれる人もいるけれど、だからといって悩みがなくなることも孤独が薄れることもありません。

 でも、このお父さんが凄く素敵でした。どこまでもララに寄り添い、不安を取り除こうと歩み寄ってくれます。親子の関係って、思ったように上手くいかないものですよね。あと6歳の弟は冒頭から最後までびっくりするくらいかわいいです。出てくるたびに癒しでした。彼もララのジェンダー問題をキチンと理解して、支えてくれる存在のひとりです。

 問題や孤独や葛藤は、どこに向かってもあります。自分の力ではどうしようもないことが重なって、苦しくなることもあるけれど、それでも懸命に努力するララの姿は美しいです。

 とても印象的なのが学校で、その場に溶け込むために笑顔を浮かべて輪に入ろうとするララの姿。全然楽しそうな笑顔じゃありません。周りの空気を読んだ笑顔です。口角を上げただけ。度々出てくる表情だったから、いかに多くの場面でララがその表情を使って場をやり過ごしてこなければいけなかったが垣間見れて、胸が痛くなります。

 あと2年。されど2年。周りからすればそうかもしれないその2年が苦しくて、「いま」どうしても変わりたくて取ったララの行動は、物理的にも精神的にもあまりにも痛く辛いものでした。そのあとの一連のシーンは全くセリフがなく、表情と仕草から読み取ることしかできなかったけれど、ラストシーンに私は希望を見ました。

 シスジェンダー(生まれたときに診断された身体的性別と自分の性自認が一致し、それに従って生きる人のこと)が、トランスジェンダーを演じたことなどが取り沙汰されたりしている今作、トランスジェンダーだけにとらわれず、ひとりの少女の葛藤と孤独と勇気の物語として是非見てもらいたいです。
(文=華山みお)

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