華山みおの物語探索 その56

『月極オトコトモダチ』男女の友情は存在するのか?人の気持ちはスイッチのように制御できるものなのか?

2019.06.20

 今回は、映画『月極オトコトモダチ』のレビューです!

 30歳を目前にしたWEBマガジン編集者の那沙は“レンタル友達”を生業とする柳瀬と出会い、連載企画のために契約する。ある日、風邪で倒れた那沙の看病にアパートを訪れた柳瀬は、ルームメイトの珠希と急接近する。

 人と人との繋がりが昔とは異なって来ている現代。学校や職場だけではなく、SNSやインターネット上でのつながりが一般的になってきた中で、友情ってどこからどうやって始まるんでしょう?

 インスタ映えのために友達をレンタルする、コミケに同行してもらうためにおじさんをレンタルする、など世の中に浸透してきた感のある「レンタル友達」。

 「友達をレンタルする」という発想に最初は驚いたものの、現代のSNS事情などを考えると、流行るのもうなずけます。本当の友達じゃない人だからこそ、気軽に頼めることもあるでしょうしね。まだ私は人をレンタルしたことはないですが、利用する人の気持ちには共感できますし、興味もあります。

 主人公の那沙は連載の題材として、ふとしたきっかけで出会った柳瀬をレンタル友達として契約します。

 仕事のためだと思えば、友情をお金で買うことにも罪悪感や後ろめたさがなくなるでしょうし、検証するにはもってこいの題材と言えます。そして割り切れる関係だからこそ、那沙がずっとこだわっていた男女の友情が成り立つのではないでしょうか。

 昔から何度も議論されている男女間の友情ですが、私はあって欲しいと思うけど、なかなか難しいだろうなというのが、正直なところ。男女の友情が成り立つのはパンフレットで穐山監督も言っていましたが、「ある一定の条件のもとに成り立つ」というのが一番しっくりくるかもしれません。無条件に成り立つのは幼稚園とかまでで、どちらかが少しでも意識したときに、「友情」とはどこか名前の変わったものに変化していく気がします。

 レンタル友達とは何度も会っても、どんなに話が弾んでも、どれだけ会うたびに仲良くなっていっても、お金が発生しない契約時間外に連絡が来たりすることはありません。だけど、レンタル友達として出会ったわけではない那沙の友達の珠希には、彼から連絡が来ます。お金も払っていないのに。

 友達と友達が自分を差し置いて仲良くなると、それはちょっと寂しいものです。それが男女であると、恋愛絡みの心配だって脳裏をかすめるのは仕方がないことでしょう。

 取材のために会っていた柳瀬との逢瀬の中に、珠希という存在が見え隠れしてきて、那沙の心情にどんどん恋愛の色が見えてきます。そこに編集長から男女間の友情=体の関係に至るのか否かを検証するようにという指令が下ります。

 本当、編集長も言っていたけどみんなが気になるのはそこですよ!! 結局、肉欲というものが人間にある以上、そちらに至ってしまって壊れる友情がいかに多いことか。恋とか愛とかじゃなくて、欲が勝ってしまうんです。

 珠希が柳瀬を好きかもと言ってきたり、Webの記事が柳瀬にばれたり、レンタル友達としても柳瀬との関係がうまくなっていく那沙。珠希と柳瀬が音楽で繋がり、目に見えてカタチになっていく様を見て、自分の停滞がさらにプレッシャーになっていきます。

 好きな場所に一緒に行って、楽しい時間を過ごして、優しくてかっこいい柳瀬。好きになるなというほうが難しい話です。実験という名目で手をつなぎ、キスをするシーンがたまりません。なんというか、この映画見終わった後にキスしたくなる映画でした。そんな相手いないにしても、ああキスしたい! と思わされるキスシーンが、この映画の中に2か所あります。 

 「男女の関係にならないスイッチを持ってる」と言っていた柳瀬が、あの時スイッチはどっちに入っていたのでしょう。果たして、そのスイッチは効いていたのでしょうか。

 草食系男子が多くなった世界でも、人の気持ちはスイッチのように制御できるものではありません。作中でも言われていましたが、「コントロールできないから恋」なのです。

 音楽をやっている珠希が作中で作った歌がとても気に入ったのですが、エンディングで流れた際のアレンジが残念だったのが、悪い意味で印象に残ってしまいました。最初から最後まで良い物語の映画だったから特に……。

 最後の実験を経て答えを出した那沙。月極オトコトモダチと友情はどのような結果を出したのか。ぜひ劇場で観てください。
(文=華山みお)

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