華山みおの物語探索 その53

『海獣の子供』息を飲む映像美が圧巻なオリジナルの結末も、タレントの声優起用には賛否が別れそう

2019.06.15

『海獣の子供』公式HPより

 五十嵐大介先生の人気マンガ『海獣の子供』の劇場アニメが公開されました。制作が発表されてから話題になっていた作品ですね。

 中学生の琉花(声:芦田愛菜)は、自分の気持ちを言葉で表すのが苦手だった。夏休み初日、部活でチームメイトと問題を起こしてしまい、母親(声:蒼井優)と距離を置く彼女は、夏の間の居場所を失う。そこで父(声:稲垣吾郎)が働く水族館に向かい両親との思い出の詰まった大水槽に佇んでいたところ、魚たちと一緒に泳ぐ不思議な少年・海(声:石橋陽彩)とその兄の空(声:浦上晟周)と出会う。二人はジュゴンに育てられ、海は明るく純真無垢、空は何もかも見透かしているような怖さを秘めていた。彼らに導かれるように琉花は見たことのない不思議な世界に触れていく。

  一方、三人の出会いをきっかけに地球上では様々な現象が発生。夜空から流星が海へ堕ち、海のすべての生き物が日本に集い始める。そして巨大なザトウクジラが“ソング”とともに海の生き物たちに祭りの“本番”が近いことを伝えていく。海と空が超常現象と関係していることを知って二人を利用しようとする者が現れ、海洋学者のジム(声:田中泯)やアングラード(声:森崎ウィン)はそんな二人を守ろうとし、それぞれの思惑が交錯する。

 原作の人気はもちろん、圧倒的な描写力、芦田愛菜さんなどの声優起用、音楽・久石譲さん、主題歌には米津玄師さんが起用と話題に事欠きません。これらのニュースをきっかけに興味を持ち映画館に足を運ぶ人も増えるのでしょう。

 私は原作未読の状態でこの映画を観に行きました。話題の映画、というだけで足を運ぶ自分のようなものもいることでしょう。

 予告が終わり、画面に絵が映された瞬間に息を飲みました。

 主人公の琉花の思い出から物語は始まります。それは水族館の思い出。キラキラとした魚たちの描写がキレイで、あのシーンだけでもずっと見ていたくなったのと、芦田愛菜さん演じる琉花のモノローグの最後の部分で、最初からちょっと泣きそうになってしまい、ぐっとこの物語の中に引き込まれてしまいました。

 琉花が活発な女の子だからか、走るシーンが多くあります。その映像が人物と背景の動きがやや不自然に感じられ、少し酔いそうになってしまいます。イラストの美麗さに焦点を当てた動き故なのでしょうか。でも大雨の中、自転車に乗る琉花が雨を抜けたシーンがあるのですが、スピード感と光の様子がすごかったです。めっちゃ気持ちのいいシーンです。

 今回芦田愛菜さんをはじめ、石橋陽彩さん、浦上晟周さんなどの声優起用も注目のポイントです。ナチュラルなお芝居が物語にマッチしている部分もあれば、説明部分が入ってこないような部分もあって、良し悪しのある結果に思えました。

 特に違和感を覚えたのがデデを演じた富塚純子さん。声の感じがとても上品な老人をイメージさせるのですが、ビジュアルが出ると歯がほとんどないような老婆だったのです。深みのある声だっただけに、ビジュアルとの差が気になってしまいました。そういった細かい部分は他にはあるものの、芦田愛菜さんの演じる琉花は、等身大の中学生らしさが溢れる魅力的な声でした。

 物語が進むにつれ、ジュゴンに育てられたという海と空の謎に迫っていきます。不思議な少年たちと、彼らを取り巻く大人たちのいう「ソング」とは何か。「祭り」では何が起こるのか……。

 長い長い琉花の夏の物語。クライマックスシーンの映像だからこその表現が詰め込まれたシーンは圧巻です。原作とは結末が違うとのことですが、私は原作ではあの部分がどのように表現されているのか、これから確かめたいと思います。

 原作のファンの方も、原作の世界観が映像化されたもうひとつの『海獣の子供』をぜひスクリーンで見てもらいたいです。

 そして、この映画を観るととても水族館に行きたくなります。海に行くのもいいかもしれませんね。海の中の生物に逢いたくなります。これから世間は夏休み。『海獣の子供』を観て原作を読んで、水族館に出かけたいと思います。
(文=華山みお)

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