薔薇族だった時代 ~ある男性との再会、奇跡は現実に起こりうる~ 第13回

2019.06.10

撮影:津田広樹(※)

 最近では、テレビドラマや映画のみならず、バラエティー番組です ら再現VTRが作られ、ときには本人や有名な俳優が起用されたりすることが珍しくない。そんな再現VTR等ほとんど無かった時代に私は薔薇族の誌面で、現実の再会ではあるけれど、いまでいうボーイズラブ(以下、BL)の映画のような再会シーンの再現をしたことがある。

 友人に日記のように書いてもらった経緯をモノクロページにちりばめて、スポーツマンモデルでイメージ撮影した写真と合わせて構成した。平成を飛び越えて令和になったいま、改めて見てみると新鮮な気がする。

 自分が若かりし頃、都営(当時)プールで泳いだ後にトイレで用を足そうにも競パンの紐がほどけなく、困ったときがあった。するとお歳上のお兄さんが「大丈夫?」と声をかけてくれ、親切にほどいてくれた。偶然かわざとか、紐をほどくお兄さんの指が競パンの上から刺激を与えてしまい、元気になってしまった。

 そのお兄さんは彼女と来ていた。私も当時勤務していた芸能プロダクションの同僚女性と付き合っていた。変な表現かも知れないが、バイ同士のインスピレーションみたいなものがあり、どちらからともなく「来週のこの時間にこのプールでまた会おう」となった(この展開がBLだな)。そして私たちは約束通り翌週ふたりで泳ぎ、食事等を楽しんだ。お互いに彼女がいたこともあり、趣味の話しもしなければ連絡先の交換もしなかった。だから時が経ち、互いの記憶から消えさっていたと思う。

 それから私は芸能プロを辞め、好きなミュージカルと写真の勉強のためにニューヨークやロンドンで過 ごした。帰国して日本でタップダンスを習いたくなり、多くの芸能人の師匠である先生の教室に通いだした。社会人のアフターで習っている男女が多かったので、軽く会釈する程度で生徒の顔はほとんど見なかった。

 あるとき、先生に発表会出演を促され出演を決めたことがあった。プログラムが完成し、自分の写真の隣に掲載されている男性の名前と写真を見て驚いた。時折レッスンで会釈していた男性……その人は、プールで出会った男性だったのだ。テレビドラマや映画を観ていて 「そんな偶然あるわけないよ」という偶然は、現実に起こるのだ。
(文=津田広樹)

【津田広樹プロフィール】
 いわゆる80年代アイドル全盛の時代にスチール撮影のみならず、その多才さを認められてグッズ等の企画発案にまでもマルチな才能を発揮したキャリアをもちながら、あらたなる新天地として当時の有力ゲイ雑誌であった薔薇族の出版会社に編集部員として転身。その後もさらにその非凡なる才能の昇華は衰えを知らず、グラビアや企画ページ等にも幅ひろく手腕をふるい、多くの絶賛を得るまでにおよぶ。そして1996年にはゲイ業界初の試みであった3D写真集付き映像ビデオ、ジャック・リードを発売し世に送り出した。  さらにオリジナル競パン付きDVDの発売など革新を起こし続けるも、昨年に全ての映像ソフ トのレーベルを手離す。しかし長年にわたり不変的な価値観を持ち続ける津田広樹の世界観は色褪せることのなく、その真価を現在も世に問い続けている。

●津田広樹Twitter
https://twitter.com/hk8efj4xx3zxkim

※画像の加工は編集部によるもの

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