華山みおの物語探索 その51

『長いお別れ』家族とは何か?記憶は消えても愛は消えない家族の在り方を示す良作!!

 ここ最近、TVをつけると悲しい話題が多かったです。そんな中、久々に明るくて幸せなニュースが飛び込んできました。ちょうどそのニュースが飛び込んできた日に映画館で見れて、幸せな気持ちをいただきました。今回は、素敵なニュースの主役・蒼井優さん主演の映画『長いお別れ』をレビューします


 父・昇平の70歳の誕生日で久しぶりに集まった娘たちは、厳格な父が認知症になったという事実を告げられる。日に日に記憶を失い、父でも夫でもなくなっていく昇平の様子に戸惑いながらも、そんな昇平と向き合うことで、おのおのが自分自身を見つめなおしていく。そんな中、家族の誰もが忘れていた思い出が、昇平の中で息づいていることがわかり……。


 中野量太監督の前作『湯を沸かすほどの熱い愛』がとても好きで、今作もずっと楽しみにしていました。『長いお別れ』は、認知症の父親との交流を描いた作品です。高齢化社会の進む日本では、誰もがどこかで直面する可能性のある問題です。出てくる家族に近い家庭の人は、他人事としては観れなかったのではないでしょうか。

 自分がどのキャラクターの目線で見るかによっても、受ける印象は違うのかもしれません。私は三人姉妹。この物語の家族に+ひとりという感じ。蒼井優さん演じる芙美の立場が一番近いのかもしれません。

 実際、うまく人とつながることができない芙美には心動かされるシーンが何度もありました。冒頭、芙美の登場シーンは別れのシーン。一緒に住んでいた彼氏との最後の日から始まります。困ったように笑う顔がとても印象的でした。

 そして、いつも芙美は大事な一言を告げようとすると邪魔が入ったりなんだりで、その一言を飲み込んでしまいます。 夢だった自分だけのお店をオープン(キッチンカーだったけど)したものの上手くいかず、雇っていたアルバイトを半月で解雇せざるを得なくなります。1ケ月分の給料を手渡すが、気づかわれて半額しか受け取ってもらえず、人知れず涙してしまいます。優しくてたくさん努力もしているのに、どこか不憫で報われない。そんな彼女が目の前の家族に向き合う姿がまぶしく映りました。

 姉の麻里は言葉の通じない海外で孤軍奮闘し、実家とは別の家庭作りに悩みます。家族全員が主役のこの物語の中でキーマンとなるのが、麻里の息子・崇です。外国育ちの崇は難しい漢字をすらすらと書ける祖父を尊敬し、「漢字マスター」と呼びます。実際に会ったのは少しの時間だったけど、この時の思い出を崇はずっと大事にしていました。思春期に入り、学校をサボりがちになった際も、祖父に対しての思いやりを見せます。

 中野監督のキャスティングが作品とカッチリとハマる感じがとても気持ちがよく、物語全体の説得力を確かにする役者人の在り方が、とても素敵でした。山崎努さんの7年間の変化の表現がたまりませんでした。言葉は少ないものの、ふとした仕草に過去彼がどんな人間だったのかどんな変化が起こったのが見て取れました。

 個人的に大好きだったのが、竹内結子さん。少し前にみた『コンフィデンスマンJP』との役のギャップが大きく、どちらの役も素晴らしかった。

 ふたり娘がそれぞれの人生を生きる中で、指針となるのが生まれ育った家族の在り方です。親の夫婦の絆、父親が誇りを持っていた仕事の在り方、見本をずっと見てきたのにままならない葛藤。父の病気を軸に今までの家族の芯があるからこそ、皆が協力することができる。これが正しい家族の在り方なのだと提示されたようでした。

 もちろん日本中の家族がこの東家のように、仲が良いわけではありません。家族愛を謳いすぎる行動や演出に、若干興ざめする部分もありました。家族のカタチは家族の数だけ正解があるんです。東一家のような家族の例もあれば、麻里が築いた今村家のような家族もあります。この東一家の中に自分たちを重ね合わせたり、憧れたり、違いを見つけたりいつか来る、今まさに来ている「家族の問題」に目を向けるきっかけをくれる映画でした。ぜひ、劇場に足を運んであなたの「家族」と向き合ってほしいです。
(文=華山みお)

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