華山みおの物語探索 その50

『アナと世界の終わり』 襲いかかるゾンビをかわし荒廃した世界で歌って踊れ!生きてるって最高に幸せ!青春ゾンビミュージカルエンターテイメント!

 ゾンビのシーンの中で最高だった曲が、アナの元カレでプレイボーイで、高圧的なニックがメインで歌う”Soldier At War”。こういった世界が混沌としたときに力を発揮するのは、ちょっと悪い奴なんですよね。水を得た魚のように金属バッドを振り回してゾンビたちをバッタバッタと倒していくニックが唄うこの歌は、ちょっと怖かったけどかっこ良かったです。

 ニックがこの歌をもう一度別のシーンで口ずさむのですが、それは最初のこのシーンとは全然違う状況で歌われていて、それはそれで最高にかっこ良かったです。最初とってもイメージが悪かったニックだけに、そのギャップがたまりません。

 この映画って、メインキャラの高校生たちに絶対に好きになってしまうポイントを持たせているんですよね。ミュージカルの歌に乗せてそのキャラクターの魅力がぎゅっと濃縮されて、届けられるこの感覚はなんなのでしょうか。歌の力を思い知らされる瞬間です。

 本当にどの曲も最高だ、とサントラを聴きながら余韻に浸るのでした。ミュージカルのいいところはサントラを聴けばシーンが目に浮かぶところですよね。「生きてるって最高に幸せ」と歌うラストの曲”What A Time To Be Alive”は、人が死にまくった後のエンディングロールで流れます。この皮肉な歌も、最高ですよ。

 1曲1曲の歌をしっかり聞かせてくれる分、青春ゾンビミュージカルとして、学校生活→ゾンビ発生→結末、と詰め込みすぎていると感じる人もいるでしょう。私もそれぞれのキャラクターをもっと掘り下げたかったり、これが連続ドラマだったらこの関係性にもっとスポットを当てて濃く描いてほしい、とかこのシーンの後すごいみんなあっさりしてるな! とか、切り替え早いな! とか思うところもあったけど、その葛藤を描いていたらテンポが悪くなってしまいますもんね。

 駆け抜ける感じがこの映画の良いところです。爽快感とスリルと涙と笑いのポイントをぎゅっとキャッチして一緒に走り抜けながら観るのがおすすめです。深く考えたら面白くなくなっちゃいますもんね。

 本当に連ドラにならないかなぁ。もっとじっくり観たいですよ。学校パートとゾンビパートでそれぞれ1時間くらいじっくり見たいシーンがたくさんあります。想像力が働きまくるよ~。好き。

 多分、青春映画としたら物足りない部分が多くて、ゾンビ映画としても物足りないのかもしれませんし、本格ミュージカルでもないのかもしれません。それを全部足して作り上げた映画として、相乗効果で最高の作品になった稀有な作品でしょう。青春ミュージカルゾンビ映画という新ジャンルを、ぜひ劇場で体感してください。

 公開されている劇場が少なすぎるので、同じゾンビ物として一世を風靡したカメ止めのように上演館が続々と増えていってほしい! ミュージカル映画は特に映画館で見ると大音量で聞けるのでお勧めですよ! ゾンビの迫力と歌の迫力をぜひ味わってください。
(文=華山みお)

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