クローズアップされる「中高年の引きこもり」 今こそ読むべき『「子供を殺してください」という親たち』

 元農林水産省事務次官の熊沢英昭容疑者(76)が東京都練馬区の自宅で長男(44)を刺殺し、殺人未遂容疑で逮捕された事件。熊沢容疑者は調べに対して、川崎市で児童ら20人が死傷した事件に触れ、「自分の息子が第三者に危害を加えるかもしれないと思った」と供述しているという。

 殺害された長男は、引きこもり傾向にあったと報じられている。その一方で、川崎殺傷事件の岩崎隆一容疑者(51)についても、引きこもりだったという報道が駆け巡っている。2つの事件に共通するキーワードとして浮上した「中高年の引きこもり」。事件をキッカケに「8050問題」といった問題も再びクローズアップされている。

 こうした中で、再び注目を集める漫画がある。『「子供を殺してください」という親たち』(新潮社/既刊4巻)だ。

『「子供を殺してください」という親たち』第1巻

 株式会社トキワ精神保健事務所の押川剛氏の同名ノンフィクションを鈴木マサカズ氏の作画により漫画化した本作。押川氏は、精神科医療とのつながりを必要としながらも適切な対応がされていない患者を説得し、医療につなげていくという「精神障害者移送サービス」を確立した人物。漫画では、そのサービスを通じて見た「現実」が描かれている。

 コミックス第2巻に収録されている「親を許さない子供たち」編では、うつ病を病みながらも病院に行こうとしない田辺卓也(仮名・35歳)が登場する。卓也は引きこもりの生活を10年送っており、母親にエアガンを向けるといった家庭内暴力もふるっていた。母親に対して異常な執着心を見せる卓也だが、その背景には、幼い時に母親から受けた厳しい指導が影響していた。

『「子供を殺してください」という親たち』第2巻

 コミックス第3巻に収録されている「依頼にならなかった家族たち」編では、統合失調症など複数の精神疾患を診断された息子からDVを受ける母親が押川氏の元にやってくる。押川氏は母親の覚悟を試すため、「マンションを売れるか」と問いかけるが、返ってきた言葉は「それでしたら いっそのこと あの子を殺してくれませんか?」という絶望的な答えだった。数カ月後、テレビに映されていたのは、その息子が父親を刺殺するというニュースだった。

 ほかにも本作には、家族や周囲の教育圧力に潰れたエリートの息子、酒に溺れて親に刃物を向ける男、母親を奴隷扱いしゴミに埋もれて生活する娘――といった社会の裏側に潜む家族の闇が描かれている。

 コミックス第1巻の巻末に掲載されているコラムで押川氏は<この漫画を読む読者は、どんな人なんだろうか。興味本位や怖いもの見たささろうか。それも悪くない。だが、どうか「コワイ」で終わらせずに、これからの精神保健福祉分野がどうあるべきなのか考えてみてほしい。表面に見えていないだけで、こういった問題に悩む家族はとてもたくさんいるのだ>と読者に訴えている。

 事件をキッカケに「引きこもり」がクローズアップされ、各所で議論が交わされている現在。今こそ読むべき作品なのではないだろうか。

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