『ガンニバル』(二宮正明)食人文化に村八分…隔離された山村で起きるあまりにも残酷な仕打ち…この世で最も恐ろしいのは人間である

2019.05.28

『ガンニバル』/二宮正明

 食人文化、いわゆるカニバリズムを扱ったフィクションは多い。

 例えば有名なところで1983年の公開映画で、監督の『食人族』や、そのオマージュ作品で2015年公開の『グリーン・インフェルノ』がある。これらは食人文化をもろに扱う作品であるが、文化的なものではなく精神的なもの、嗜好的なものではあの『羊たちの沈黙』シリーズが存在する。

 分かりやすく映画で例を挙げてしまったが、とにかく人が人を食べるというショッキングさから、ホラーという分野においては題材にしやすいものだろう。一方で、倫理観から扱いずらい分野でもあるが。

 さて、今回はそんなカニバリズムをテーマとしたミステリーホラーマンガ『ガンニバル』(日本文芸社)を紹介しよう。

 まずは公式の紹介文を引用する。


 山間の村「供花村」に赴任してきた駐在・阿川大悟。

 村の人々は大悟一家を暖かく受け入れるが、一人の老婆が遺体で見つかり、大悟は村の異常性に徐々に気付き、ある疑念に囚われる…。

 「この村の人間は人を喰ってる」──。

 次々と起きる事件、村に充満する排除の空気、一息も尽かせぬ緊迫感で放つ、驚愕・戦慄の‘村八分’サスペンス堂々開幕!!


 カニバリズムもホラーの題材としては扱いやすいものであるが、山間の隔離された村というのもホラーの舞台になりやすい。だいたいそういった村の住人は、土着の文化を持っており、風習や慣例を大事にするために排他的で、一般常識が通じないことが多い。『ガンニバル』の舞台となる村も、まさしくそうだ。

 食人文化というのは、現代からすると非常に野蛮で恐ろしく感じるが、排他的で常識が通じないというのも実はかなり恐ろしいこと。『ガンニバル』では、より色濃く排他的な村民が登場する。彼らは何をしでかすか分からない。もっと言えば、敵なのか味方なのかもはっきりしない。そんな人間に囲まれて生きるのは、ひどく孤独を感じるものだ。食人という物理的恐怖に加え、今作では排他という精神的恐怖も強く打ち出されている。

 主人公・阿川大悟の前任の警察官は、村八分にあって狂人と化して死んでしまったという。村全体でよってたかって前任者に何をしたのか。そこに至る理由はなんだったのか。まだ作中には描かれていないが、正常だった人間を物理的な攻撃をせずに狂人に追い込むというのは相当なことだ。

 ホラー作品でよく言われるのが、「人間が一番恐ろしい」というもの。『ガンニバル』はまさにそれを具現化した作品なのだ。バケモノでも猛禽類でもない人間が人間を食らい、狂人になるまで徹底的に追い込む。これほどやっかいな怪物は地球上には存在しない。

 まだ2巻までのリリースなので、物語の核心にはあまり近づけてはいない。今後、徐々にこの村の謎が明らかにされていくだろうが、主人公家族が幸福に生きられることを願うばかりである。
(文=Leoneko)

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