35歳以上の中高年が「オタ活」を楽しむための秘訣とは?『「若者」をやめて、「大人」を始める』レビュー

■なりたくて中年になった中年などいない

 悩ましい「中年の気後れ」だが、「なりたくて中年になったわけでもないのに中年になっただけで気後れしながら生きるなんてまっぴらだ」という、矛盾する感情も存在するのだ。

理想は「中年になったことを必要以上に気後れせず、かつ、古参ぶったりなどのウザいことをせず、ありのままに生きる」だ。

 しかし何もオタクに限らず、上の理想は簡単そうに見えて難しい。だからこそ、少なくない中年がうまくいかずにクライシスに陥るのだ。だが、これを実践していた偉大な先達がいた。ライターの雨宮まみさんだ。雨宮さんより4歳年下の私は、中年という荒野を先に雨宮さんが切り開いていってくれてくれることが有難かった。道標になるような言葉を綴ってくれるのだろうと思っていた。

 雨宮さんは「小娘には出せない大人女性の魅力」みたいなうんざりするようなことを一切言わなかったし、等身大のヒリヒリするような不安を抱えていることも率直に表現する姿にも痺れた。かっこいい大人であり、生きようとした人だった。しかし雨宮さんは2016年に40歳で亡くなり、来年私は雨宮さんと同い年になる。

 雨宮さんのいない世界で中年はどうしたらいいのか――ここでそのヒントになるのが熊代亨氏の書籍『「若者」をやめて、「大人」を始める ――「成熟困難時代」をどう生きるか?』になる。

 

■中年オタクが趣味を続けられなくなった瞬間、空っぽのおじさんおばさんが爆誕

 著者の熊代氏は精神外科医だが、やりこんだゲーマーでもあり、本書の中には「中高年のオタ活の在り方」についても記載がある。まずは、中高年のオタクにとって「救心」なしには読めない心臓に悪い箇所から紹介していきたい。

 本書では、2000年代のインターネットにおいて、オタクになるやつはオタクをやめられない、といった論調が主流だった中、いざそこから月日が流れ中年になった彼らは中年になってもオタクライフを活動的に行うのはかなり困難だという現実に気が付き始める、と指摘されている。

 そして極めつきが以下の一文だ。

『多くを懸けてきた趣味の持続が困難になった結果、アイデンティティの大黒柱を失った空っぽのおじさんおばさんが爆誕することになります』

 これほど「もうやめて中年オタのライフはゼロよ」な文を私は知らない。

 一方でこれはオタクに限った話ではない。子どもの養育や恋人や仕事など、「なにか1つ」に自分のアイデンティティを全振りさせるのは、対象が何であっても危ないということだ。本書でも「アイデンティティを確立する要素は複数あるといい」とある。

 しかし多くのオタクは、自分のアイデンティティを構成する円グラフを作ろうとすると、その大部分が「オタクであること」になるはずだ。私も今、脳内の円グラフを見てみたが、85%は「オタク」と出ていた。

「オタクになるとオタクになる前の自分を思い出せない」はオタクあるあるだが、アイデンティティ円グラフの大半が「オタク」で埋まってしまうため、思い出せなくなるのだろう。

 他にもオタクあるあるに「オタクじゃない人はどうやって人生に楽しみを見出しているのか心配だ」という非オタにしてみれば余計なお世話でしかないものもある。確かにアイデンティティの大半が「オタク」でいると、好調時は楽しみを味わい尽くせる人生の覇者であり、非オタにお節介な心配をする余裕すらある。しかしそのオタクの土台がゆらぐと一気に「空っぽ」になる危険性をはらんでいるのだ。

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