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物語探索その41

『轢き逃げ 最高の最悪な日』が事故が多発する日本に鳴らした警鐘とは? 残された家族と夫婦の愛に胸が打たれる

2019.05.16

 でも、初夜のお姫様抱っことか早苗との話し言葉とかが芝居かかりすぎてて興ざめしてしまう部分もあります。ふざけ合ってお姫様抱っこならまだしも、両者真顔だからこっちが笑うしかないという状況です。

 このシーンだけではなく、いくつか首を傾げるような演出が気になりました。水谷豊さんのやりたいことと、映画のバランスとがあっていないというか、効果をつけたシーンが効果的ではないというか、多様しすぎたせいでぼんやりしているというか……。この手法を試してみたかった、という気持ちばかりが先行してしまったかのようです。題材が良かっただけに、渋く淡々と作ってもらえたら、もっと衝撃を与えられたのではないかと思わずにいられません。

 何よりも衝撃だったのが秀一の親友、輝の存在です。最初から過剰な芝居で、態度にいらつく部分が多かった彼ですが、最後にはとうとう嫌悪感が止まらなくなりました。なんと身勝手なのか。なんて浅はかなのか。

 通り魔殺人者が口にする「誰でもよかった」や、自身のうっ憤を晴らすための他者へ攻撃してしまう心理は分からないでもないけれど、絶対に間違っています。最後の取調室のシーンのことを思うと、前半の彼の言動や、あのカットの意味は何だったのだろうとも考えてしまうんです。すべてにおいて彼は「チグハグ」で、不気味でした。それが狙いだといわれたらまんまとはまってしまったってことでしょうか。

 対して被害者の遺族。こちらの心情を考えると、居ても立ってもいられない父と気丈に振舞う母の描き方は非常に良かったです。ちょっと右京さんが顔を出したのか、一般人がやることではないことも多かったけれど、それほど必死だったのだというのは伝わってきました。特に、繰り返し繰り返し娘のビデオや写真を見ている姿は、見ていて辛くなりました。

 奥さんと、秀一の妻の早苗が最期に話すシーンは感動的でしたが、お母さんが達観しすぎているようにも思えました。娘が亡くなって一か月程度で加害者の妻に、「あなたは悪くない」と言えるほど割り切れるものでしょうか。娘の誕生日に遺影の前で溢れるように泣いた後だから、気持ちが落ち着いていたのでしょうか。女性が強く清廉に描かれた映画でしたが、娘を亡くした奥さんに強さをそんなに求めないでほしくもありました。

 早苗さんは幸せの絶頂の瞬間に最悪な状況に陥ってしまいましたが、この奥さんと話が出来て、「あなたは悪くない」と言ってもらえたのはとても良かったですめ。胸をぐっと抑えて涙するシーンがとても印象的でした。

 話しが進むにつれて荒が目立ってきたのが、映画としては全体的に残念でした。でも、人の嫉妬心、虚栄、慢心そして、自動車事故について改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか。

 今の日本で自動車事故を起こして逃げきることって、ほぼ不可能でしょうね。もちろんそうであってほしいです。世の中から不注意による交通事故がひとつでも減りますように。
(文=華山みお)

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