物語探索その41

『轢き逃げ 最高の最悪な日』が事故が多発する日本に鳴らした警鐘とは? 残された家族と夫婦の愛に胸が打たれる

2019.05.16

『轢き逃げ 最高の最悪な日』公式HPより

 映画館で見る別の映画の予告が大好きです。とっても気になるシーンのオンパレードを大画面大迫力で観られるから、期待値が高まります。耳に残る台詞や気になる役者さん、そして目に飛び込んでくる衝撃的なタイトル。

 今回は、その衝撃が忘れられずに観に行った映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』をレビューします。

 「相棒」シリーズでおなじみの俳優・水谷豊の長編映画監督第2作。水谷による完全オリジナル脚本で、ひき逃げ事件の加害者、被害者の両親、事件を追う刑事たちの人生が複雑に絡み合い、彼らが心の奥底に抱える何かを浮き彫りにしていくさまを描き出す。ある地方都市でひき逃げ事件が起こり、ひとりの女性が命を落とす。車を運転していた青年・宗方秀一と、助手席に乗っていた親友の森田輝は、秀一の結婚式の打合せに急いでいたのだった。
 被害者の両親である時山光央と千鶴子は悲しみに暮れ、ベテラン刑事の柳公三郎と新米刑事の前田俊が事件の捜査にあたる。監督の水谷はひき逃げで命を落とした女性の父・光央も演じる。事件の加害者となる秀一役は特撮ドラマ「牙狼 GARO 魔戒ノ花」の中山麻聖、親友の輝役を「カナリア」は石田法嗣。そのほか小林涼子、毎熊克哉、檀ふみ、岸部一徳らが出演。

 毎回あまり情報を仕入れずに映画を観にいくので、この映画も水谷豊さんが監督しているというのを知らずに鑑賞しました。途中、水谷さんが出てきたときには「遺族側はキャストが豪華だなぁ」と思っていたのですが、まさか監督もやられていたとは……。エンドロールを観て驚きました。

 ここ最近、自動車事故に関しての話題が多く関心を集めています。図らずも、このタイミングでこのタイトルです。関連付けてしまう人も多くいるのではないでしょうか。もちろん製作側も、公開のタイミングであのような事故が立て続けに起きるとは考えていなかったでしょうが、不思議な巡り合わせです。

 事故の内容は、タイトルの通り轢き逃げです。先を急ぐあまりに人をはね、わが身かわいさにそのまま放置してしまいます。その行為に全く同情の余地はありません。でも最後までこの作品を見たら、どうしていいか分からない気持ちになりました。

 物語の主人公は3人。内面を追うのはふたりですが、そのうちのひとりは事故を起こした秀一。勤める大手ゼネコンお副社長の娘との結婚を数日後に控え、未来に希望しかない彼が人を轢いたのです。開口一番に口に出た言葉が「人生終わった」でした。

 安否を気遣うでもなく、はねた人の人生を慮るのではなく自分の人生についてのことだけを考えた身勝手な言葉です。

 彼はその後逮捕されるまで自責の念に駆られたり、忘れようと無理にはしゃいでみたり、人生の中で大切なイベントである結婚式をこなしたりと、慌ただしい感情に翻弄されます。何度も何度も事故の場面をフラッシュバックさせられます。

 逃げるという選択をしたのは秀一です。そこに同情の余地はないのですが、最後の最後の展開で、彼を責めるのはどんどんかわいそうに思えてしまいます。

 この作品はそれぞれのキャラクターの過去などは深堀されず、会話の端々にあるヒントから想像を膨らませろという体なのですが、彼は彼なりに辛苦を重ねて副社長の娘との結婚までこぎつけていました。もちろん、彼女のことを大事に思う気持ちは本物です。こんなことが起こったから、最後に本物になったのかもしれないけれど、最後の真摯な手紙の言葉にはぐっとくるものがあります。きちんと罪を償って、また戻って来たときにどんな行動が取れるのか。秀一ならば、ちゃんと罰を受け、罪忘れることなく生きて行けると思います。

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