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インタビュー&ルポルタージュ

元AKB48グループメンバー・北原里英インタビュー 「わたしの演技で観客を裏切らなきゃいけない」 女子の闇深き呪い『映画 としまえん』

2019.05.09

 以降、松本准平は映画『最後の命』を監督して全国公開を果たし、TOKYO MXのテレビドラマ『ふたりモノローグ』のプロデューサーをこなしながらも、リリー・フランキーとの綿密なディスカッションを続けて、2016年初頭の撮影から2017年秋の劇場公開までの期間を一息に駆け抜けていく。

 その過程で多忙なリリー・フランキーと深夜に何軒ものバーをはしごしては、その多様な表現者としての生き様に幾度となく触れていったのだった……。

 筆者が垣間見たようなさまざまなプロセスを経て、北原里英は『サニー/32』で映画初主演を果たした。そして、5月10日に公開される『映画 としまえん』では、幸運なことに再び主演女優の座を射止めたのだ。

 北原里英もインタビューで語っていたように、共感する演出家や俳優への積極的なアプローチは、怠ってはならない必要不可欠な要素だろう。

 待ち望んだ初主演作の現場で苦楽を共にした監督や共演者が、次々と東映の意欲作『孤狼の血』を大ヒットさせたり、『万引き家族』でパルムドールを受賞していった現実は、北原里英が進歩的な選択眼を持つリベラルな女優であることの証左でもあろう。いや、もっと分かりやすく言い表すと、北原里英という女優に男を見る目があったのだ。

 今回のインタビュー取材における最大の収穫は、北原里英自身が毅然とした態度で宣伝の矢面に立っていたことだろう。そのような取材対応は、誰もが真似できることではないのだが、『パーフェクト・レボリューション』公開時のリリー・フランキーも同じ気構えで、媒体からどのような質問を浴びせられようとも動じない、独創的なしなやかさがあった。

 北原里英は主演女優としての責任感が人一倍強く、表現者としての主張にも筋の通った一貫性があった。ルポルタージュとしての掲載が前提であるインタビューに対しても、NG項目などの事前通告もないまま真剣に向き合って回答する北原里英の姿勢に、映画人としての良心を見たような気がする。

 残念ながら、ワイドショー的な予備知識やアイドルグループの裏事情に精通したライターは当事務所には在籍せず、構成担当として同席した昼間たかしは「あの当時は北原さん、NMB48にいたんでしょ?」などと口走るような失態を演じる始末なのだ。

 筆者が肝を潰して詫びた次第なのだが、なんら気にする素振りも見せずに主演作『映画 としまえん』に賭ける思いを多彩な言葉で表現して頂いた。

 とても短い時間ではあったものの、『あかんやつら東映京都撮影所血風録』各項のページを捲る度に、筆者の中に眠っていた東映への熱い思いが込み上げてきたことは疑いようのない事実だった。

 世代は違っても、過去と現在とが映画的な記憶で繋がっていくような、そんな願いは北原里英のインタビュー取材が実現したことにより、今回の原稿で結実していった。

 先日、青森でのロケーション撮影を終えて映像素材のチェック作業をしていたスタジオで、雪の道中で過酷な撮影を敢行したカメラマンの石崎俊一から、「深夜の仕事は疲れますね。気分転換に映画でも観ましょうか」と労いの声をかけられた。

 そこで、スタジオの大型モニターに表示された配信チャンネルの作品一覧から、筆者は迷わず『仁義なき戦い』を選んだ。高校生の頃、栄町にあった名古屋東映のオールナイト上映で、ガラの悪そうな男性客に交じって『仁義なき戦い』五部作一挙上映を観にいって以来となる深夜の鑑賞だった。

 すでに数十回は観ているであろう『仁義なき戦い』だが、今回ばかりは若杉寛(梅宮辰夫)と山守義雄組長(金子信雄)の極端なコントラストが、妙に浮かび上がってくるように感じられた。

 彗星のように現れては、あっけなく消えていった若杉寛が東映スターの象徴だったとするならば、競艇利権を牛耳る策士の山守組長のモデルは東映のプロデューサーたちではなかったのかと逡巡しているうちに、睡魔に襲われてスタジオのソファーで眠りに落ちてしまった。

 改めて誰もが憧れるスターたちが主役を張り、先見性と機動力が突出した製作陣との絶妙なバランスが、かつての東映の原動力だったのではなかろうか……。

 そして、令和元年早々に劇場公開される『映画 としまえん』が、東映伝統のスター映画の最新作であることは紛れもない事実なのだ。

(構成=昼間たかし事務所/取材・執筆=増田俊樹)

『映画 としまえん』

主演:北原里英
監督・脚本:高橋浩
製作:東映ビデオ
製作プロダクション:東映東京撮影所
配給・宣伝:東映ビデオ

(c)2019 東映ビデオ
公式サイト:https://www.toshimaen-movie.com/

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