『おなかがすいたらおともだち』(おぐりイコ)あまりにも切ない学園慟哭ホラー…「また明日」と言える友だちの大切さを教えてくれる

2019.04.12

おなかがすいたらおともだち/おぐりイコ

 メランコリックで切ないホラーとして、『おなかがすいたらおともだち』(小学館)を読んだことはあるだろうか。もともとは「やわらかスピリッツ」でWEB連載されていたもので、学生特有の人間関係の複雑さや葛藤を入り交えた、ホラーに留まらない青春劇として注目を浴びている。作者は『幽霊彼氏』で泣ける恋愛ホラーを描いたおぐりイコだ。

 以下、簡単なあらすじである。

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 早河砂穂はクラスの嫌われ者だった。そんな彼女がある日から様子が変わった。実は、彼女は謎の昆虫に身体を乗っ取られていた。

 謎の昆虫は人間の死体に入り込むことで、生前と同じような行動を取らすことができた。その目的は人間の捕食。死体を操り、関係の深くなった人間を巣におびき寄せ、食べるのだ。

 早河砂穂を支配した昆虫はまだ若く、死体のコントロールや人間界のルールなどに非常に疎かった。彼女を支配して初めて登校した日、同じく嫌われ者の真島巡と知り合う。

 早河は真島に友だちになろと近づく。真島はこれまで友だちなどできたことがなかったために、彼女の行動にうろたえるも、少しずつ心を開いていく。捕食対象にされているとも知らずに……。
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 生物が身体を支配するという設定で、『寄生獣』を思い浮かべた人も多いだろう。『寄生獣』は人間の身体に超人的な能力を与えるが、『おなかがすいたらおともだち』ではそういったことはない。ただ、死者を生前と同じく操るだけだ。

 この作品のポイントは“ともだち作り”というテーマだ。主人公ふたりは学校の嫌われ者同士。真島巡は友だちができたことがない。生前の早河砂穂については描写がないので不明だが、激しいいじめにあっていたようなので、恐らく皆無だったはず。そんな彼女たちが少しずつ心を開き、恋愛するかのように互いの距離を縮めていく様は、観ている者の切なさを誘って胸をギュッと締め付けると同時に、学校社会の残酷さというものを思い起こさせる。

 学校社会とは、成熟していない精神の集団であるがゆえ、大人の世界よりも厳格で残酷な一面を持つ。孤独であったはずの学校という空間の中で、たったひとりだけど友だちができる。それが心の拠り所になり、心が豊かになっていく。厳しい環境の中では、それはある種の生きがいとも言える存在なのだ。

 しかし、早河砂穂はすでに人間ではない。人間同士の交流ではない以上、必ずほころびが生まれる。そのほころびを突きつけるとき、早河と真島巡の関係性が大きく変化し、友だちとは何か、真に理解していく。

 今作は「また明日」という言葉がキーワードであり、ある種の伏線ともなり、涙を誘う。読了後、この何気ない言葉の持つ強い力に気づかされるだろう。
(文=Leoneko)

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