【平成最後のコミケ】生きる糧に出会える。だから寒波の中でも暑くなる【C95 1日目/コスプレ島レポ】

2018.12.30

 明け方、気温は摂氏一度まで下がったけれども、躊躇する人などいなかった。誰もが服を着込んで、ポケットにはカイロも放り込んでいた。それでも、海から流れ込んでくる風は身体を芯まで冷えさせた。

 でも、いざ会場に入って、次々と目当てのサークルをめぐっていると、途端に寒さは感じなくなった。渦巻くのは熱気。あらゆる参加者から噴き出す情熱。今、この瞬間。買っておかなければどうするんだ?

 巨大なホールの中を包み込む熱は、汗ばむまでになっていた。買い物を終えて、一息をつくと「ふうっ」と、満足げな顔で上着の下に着込んだ一枚を脱ぐ人も多かった。

 平成最後となるコミックマーケット。コミックマーケット95はこうして始まった。

 そう、あちこちで平成最後という言葉は見るけれども、まだ世間には実感はない。それはコミックマーケットも同じだ。

 なにか変わった感じがあるとすれば、国際展示場駅の前。駅前ロータリーには新しくダイワロイネットホテルができたし、ロータリー自体も工事中。かつては、埋め立て地の真ん中にポツンと立っていた印象のある東京ビックサイト。今では、すっかり新興の都市の一部のようになった。2020年の東京オリンピックに向けて、周囲で工事も盛んだ。

 買い物の合間にトラックヤードから東のほうを見ると、新しいタワーマンションが三つもニョキニョキとのびている。ああ、あそこに住んだとしたら、コミケがちょっとは楽になるかも知れないな。でも、コミケの時以外はどうだろう。それに、コミケが近づくたびに、あまり親しくもない友人が親友みたいな顔をして「泊めてくれよ」と電話をしてきそうだ。

 工事はビッグサイトの中でも進んでいる。でもまだ、今回までは「いつものコミケ」。本当に、東ホールが使えなくなるなんて、実感はない。

 でも、実感はなくていいのだ。使用制限をめぐって様々な運動もあったけど、なにも実を結ばなかった。「私が解決します」と、票を目当てに幇間のように踊った政治家たちもすっかりとフェードアウトした。もう、あとはなるようにしかならない。強いられる状況に併せて楽しむしかないのだから。

 そして、平成最後のコミケも盛り上がる。

 さあ、楽しんでいる人たちを取材しよう。そう思って、初日に足を運んだはコスプレ島だ。様々な紆余曲折を経て、コミケにも定着したジャンル。ふと、一人のコスプレイヤーのROMを見つけて手に取ると、こんな一言を。

「コミケだから、まだ私の本気じゃなんですけど……」

 この一言にドキリとする。だって、それは制限されているからできないと嘆くのではなく、その場でできることをやり抜こうという意志の現れだと思ったからだ。そう、今回のカタログでもDr.モローが、時折、コスプレ広場に出現する見せたいだけのコスプレイヤーを揶揄していた。単にドキツイものを見せたいだけなら、価値はない。でも、そこになんらかの意志や思想があるなら、それはひとつの作品となる。誰が決めるか? そんなのは、作者自身。被写体自身。でも、コミックマーケットの理念の下で、なんらかの意志や情熱がROMを作品へと昇華させているのは間違いない。

幸和あいき(@14_akcs)さん。
マンガ『アスペちゃん』など、マンガ活動も積極的な赤木クロさん(@akagikuro)。過去のインタビューはこちらから!
赤木荘4冊目となる新刊は、いつものレイヤーものとはまた違った良作!(※表紙画像は編集部で加工を加えております)
Twitterの野菜色が強い日暮りん(@higurashirin)さん。この日頒布した「エロ熟格女総集編」は見事完売したそう。
リアライズの競泳水着姿でひときわ目立っていた羽生ゆか(@yukanekonyun)さん。
パティー(@PattieCosplay)さん。

 そう、コスプレ島で気になるのは、男の娘レイヤーのサークルも増えたこと。ふっと、興味を惹かれたのは「30歳男性」という文字が際立つポスター。頒布している写真集も美しいけど、その前に立っている本人はより美しさが際立っている。そう、情熱を注いで自らの肉体をカスタマイズして女性よりも美しくなれる。それは、どうやっても限られた人しかできないこと。だから、それをやり遂げている人には、ひたすらに羨ましさを感じるのだ。

可愛すぎる男の娘・めかつさん(@mekatyu0328)。ガチの30歳男性!
池袋のコンセプトカフェ&バー・まほうにかけられての代表・ニャンリオさんとうなぎさん。この日は「呪いで女の子にされてしまった写真集」を頒布していた。
可愛らしさしかなかったうひょさん(右)。

 ブース前での、刹那の時間。贈り物を渡して、あれこれと買い込んでいる男性の姿も見た。目の前にいるコスプレイヤーがこの男性の生きる糧となっているのならば、それはとても素敵なことだと思う。

 そうだよ、みんなコミケで生きる糧をもらっている。どんなに同人誌書店やダウンロード販売が発展したとしても。祭典は年に二回、必ずやってくる。どんな辛い人生の中でも、その日程があるから、もう少し生きてみようかなと人は思う。

 ああ、よかった。今回もコミックマーケットが始まって。そして、次回も……。ううん、まだコミケは初日。明日も明後日も、みんなは生きる糧を探している。
(文=昼間たかし)

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