『佐藤さん』現代の怪談か都市伝説か?謎の暗殺者「佐藤」は人間なのかモンスターなのか?ストーリー重視のオムニバスサイコホラー!!
2018.05.08
『無敵道』や『ズタボロ』など、アウトローのマンガを多く描き人気を博してきた楠本哲がホラー・都市伝説系で新境地を開いた。それが『佐藤さん』だ。
名前は怖くもなんともない。「佐藤」という日本ではおなじみ、というよりも最も多い苗字のために、人によっては親近感がわいてしまうほどではないだろうか。
一体『佐藤さん』とはどういう物語なのか。以下、公式の紹介文だ。
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会った人間は誰もいない…「会う」=「死」と噂される人かどうかもわからない暗殺者「佐藤」さん。狙われたらあきらめるしかない!?新刊サイコホラー!
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サイコホラーといことで、映画でいうところの『羊たちの沈黙』や『シャイニング』、『ミザリー』のような常軌を逸したキャラクターが魅力な作品を思い浮かべるかもしれない。
しかし、実際の『佐藤さん』の内容は想像していたものと少々異なる。それは『佐藤さん』の設定が要因だ。
まず、暗殺者が登場するということでリアルな人間の戦いかと思いきや、世界観が都市伝説風味となっている。暗殺者の「佐藤」さんは誰もその姿を見たことがなく、「佐藤」さんはと会うと(姿を見ると)、必ず殺されてしまう(もしくは限りなく死に近い状況になる)。この絶対条件が極端すぎるので、呪いだとか、噂とかの都市伝説風に昇華されてしまう。作中でも、実際に「佐藤」さんの存在は都市伝説して扱われる。
次に、「佐藤」さんの存在自体が人間なのか、怪物なのか、はっきりしていない。「佐藤」さんの描写はあるものの、『名探偵コナン』でいうところの犯人のように、基本的に全身黒塗りで、身体の一部しか描かれない。しかもその描かれる部分は、とても人間には思えない不気味な異形の物のように見える。外見のみならず、登場の仕方もこの世のものと思えない物理法則を無視したものがほとんどだ。つまり、明確に描写があるわけではないものの、ほとんどモンスターないし、それに近い存在の“何か”として描かれるのだ。
この二点だけで、王道のサイコホラーというのとは少し異なる雰囲気が感じられるだろう。よってサイコホラーと表現するのが決して間違いではないが、ファンタジックサイコホラーとするくらいがぴったりはまる気がする。
それ以外の特徴として、全てオムニバス形式の一話完結型で描かれる点がある。「佐藤」さんという暗殺者を探し求めて殺される、対決しようとして無残にも殺される、パターンが主軸だ。しかし、全てが全て残酷な話ではない。決してハッピーエンドではないが、「佐藤」さんの人情味(?)を感じさせるエピソードもあったりする。
読了後、どこか『笑ゥせぇるすまん』の影響をこの作品からは感じた。喪黒福造は決して人を殺めたりはしないが、それに近い制裁を加えることはある。バッドエンドが多い物語だが、決して全てがそういうわけではない。喪黒福造がどこか憎めないキャラクターなように、「佐藤」さんもなんだか憎めないのだ。
ただ、喪黒福造と決定的に違うのは「佐藤」さんは、本当に人を殺す。それもかなり大胆に、豪快で残酷にだ。殺人描写は少々グロテスクであり、どこから「佐藤」さんが現れるか分からない圧迫感と恐怖感がつまっている。そういった意味で、『佐藤さん』はまごうことなきホラーマンガといえよう。グロさがメインではないので、ヒューマンドラマが好きな方にもおすすめだ。
(文=Leoneko)
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『佐藤さん 1』
掲載誌/レーベル:ヤングキング
筆者:楠本哲
出版社:少年画報社☆