「声」にコンプレックスがある人へ――[3]
ボイストレーナーが考える「イケボ俳優」とは? 今から間に合う“モテ声”入門
2018.03.12
「声が好き」は時として超強力な「顔が好き」をも凌ぐ吸引力を発揮する。いわゆるイケボ(イケてるボイス)とは何なのか? そして、自らをイケボにするには何が必要なのか?
東京品川にあるボイス&メンタルトレーニングスクール『アマートムジカ』を運営する堀澤麻衣子氏、司拓也氏に、イケボで歌うコツ、イケボで話すコツについて聞いた。
◆過去のインタビューはこちらから◆
[1]居酒屋で声を張り上げているのに店員が振り向かない人は何がいけない? ボイストレーナーに聞く!
[2]声がでかい人必見! もう傷つかずに済む声の調整法をボイストレーナーに聞いてみた
■テクニシャンは「地声」と「エアー」を使い分ける
――今の流行りの歌を聞いても「声を張って歌う」というよりも、「空気に音を乗せる」ようなものが目立ちます。昨年公開されたアニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』の主題歌であり、YouTube再生回数が1億回を超えた『打上花火』はDAOKO さん、米津玄師さんの男女のデュエット曲ですが、どちらも空気に声を乗せるような、張らない、叫ばない、「エアー」な歌い方ですよね。
司拓也氏(以下、司) 最近はエアー系が確かに多いですね。ただ、すべてがエアーばかりでなく、地声も載せてバランスを取りつつ歌っている人が多いと思います。
地声ばかりだと聴き手は疲れてしまって、エアーばかりだと迫力がなくなってしまうんです。
堀澤麻衣子氏(以下、堀澤) 玉置浩二さんは、エアーなところはエアーですが、張るところは張っている。そのグラデーションを使って歌える人は歌が格段にうまいと思われますし、聞いている人が飽きないんですよね。
例えば、DREAMS COME TRUEの吉田美和さんは声が出ているし、すごく歌が上手いのですが、基本的にはとても喉が強くてずっと張っていますよね。
――バラードや静かな曲でもクリアな歌声で、エアー感が確かにないですね。
堀澤 ただ、地声だけが続くと、一曲ならいいのですが、アルバム一枚聞くとちょっとおなか一杯になってしまうんですね。これはエアー系でも同じで、ずっとエアー系だと、ちょっとぼんやりしてしまう。どちらかだけだと飽きてきてしまいがちです。
地声とエアーのグラデーションが上手いのはMisiaさんですね。
なお、歌声のボイストレーニングは、まず「エアー」な声を出す指導をします。そうすると喉が開くので、そこから「芯を作る」練習をして地声も鍛えます。
芯を細くすればするほど、地声になります。芯は麺の太さによく例えますね。エアー系はきしめん、地声は素麺というような。芯がくっきり細くない状態であればあるほど、空気交じりの、エアーな声になります。
ちなみにエアーの強い声はジャズ、シャンソン、フレンチポップスに向いています。
――吐息を感じさせるから、大人っぽさや色気が必要な曲に合うのでしょうね。
堀澤 はい。もっとこれに芯を作ると、ポップスにも合うクリアな声になります。ポップスにエアーすぎる声だと「聞こえない、聞き取りにくい」となるので、声に芯があることが大切なんです。
■ボイストレーナーの考えるイケボ俳優、イケボ女優
――歌声について聞いてきましたが、話し声や演技での声が上手い俳優ですと、どなたになるでしょうか。
司 堺雅人さんですね。先ほどの玉置さんなどのケースと同じで、エアーと地声の使い分けがうまいです。
堀澤 役所浩司さんも使い分けがうまいですよね。優しさを出したいときはエアー系でしゃべりますし、強さを出したいときは地声と、一辺倒じゃないです。
あと、玉木宏さんは本当にいい声ですね。
――1回目の原稿で「声が大きすぎると、場合によっては嫌悪感を持たれますが、声が通るということで嫌悪感を抱かれることはまずありません」と伺いましたが、しっかりとクリアに通る玉木さんの声はまさにそうですね。「声が通る」の見本のような声ですね。
堀澤 以前、カフェで偶然隣の席に玉木さんが座られていたことがあったんです。顔は帽子をかぶっていたのでわからなかったのですが、声ですぐわかりました。玉木さんは完全に喉が開いている声です。骨伝導の、聞いていて気持ちのいい声ですね。
――女性だとどなたでしょうか?
堀澤 「エアー」な声が本人のキャラクターと一致しているという点で、鈴木京香さんもとてもいいですね。雰囲気と声が連動しているので、差異を感じさせません。
司 中谷美紀さんも、芯のある声と、息の声を役によって上手に使い分けられています。内面の心の強さとしなやかさを感じます。
最近では日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞された広瀬すずさん。芯のある声、間の作り方が天才的ですね。
* * *
こうしてみると、「イケボ」の作り方にもいくつかの流派があることが分かる。
①エアと地声を状況に応じ効果的に使い分ける(玉置、役所型)
②通る声(聞いていて超気持ちのいい声)を極める(玉木型)
③キャラクターと声を一致させる(鈴木型)
ファッションや体型維持、髪型など見た目に関する努力の一部を声に振り分けてみると、やっている人が少ないだけに差を出せるかもしれない。
次回は最終回、オタクの喋り方はなぜ似るのか、について堀澤氏、司氏について伺う。
(文/石徹白未亜[http://itoshiromia.com/])]
「アマートムジカ」ホームページ
http://amatomusica.com/
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