『快楽ヒストリエ』マンガ家・火鳥《楽しい日々》へのささやかな恩返し

 サンクリが終わってからは、pixivでも作品を投稿するようになりました。pixivは描き手のモチベーションを上げる設計が本当によくできていて、閲覧数やコメントが増えるようにがんばりました。それから、コミケに初参加するまでの間にも2冊、同人誌を出して……。

 そう、実は最初はサンクリではなく、コミケで初同人誌を出すつもりだったんですよ。それも、ボカロマンガのネタにしたんですけど、申し込み時期が半年前っていうのを誰も知らなかったんです。最初は「夏コミはつらいって聞いているけど、俺たち北海道民は冬コミなら大丈夫だ」なんて話して、いざ申し込もうとしたら、とっくに〆切は過ぎてる。だから、10月のサンクリに参加することになりました。それも幸いしたのかな。サンクリがきっかけでpixivでも活動を始めて、そこから次のコミケまでの間に、自分を知ってくれる人が増えたから。

 * * *

 初めてのコミケは、二泊三日の旅だった。朝、仲間と共に新千歳空港から飛行機に乗った。サークルの仲間との合同誌とは別に『魔理沙がぢになる話』を持ち込んだ。幾人もに素通りされる寂しさの後にやってくる「1冊ください」という、たった一度の言葉のうれしさを感じたかった。

「あちこち力注ぎすぎでしょうw爆笑させていただきましたw」
「完売の時に並んでましたが完売すんのはえぇとか思いながら拍手しましたよwww」
(2009年9月30日pixivに投稿した「【C76レポート】東京火鳥旅2【その3】」に寄せられたコメント)

火鳥 就職活動はしていないし、する気もなかったんです。卒業はできるかと思っていたら単位が足りなくてフェードアウト……中退してました。普通だったら将来について焦るところですけど、もう同人活動を始めてから楽しくて楽しくて、楽しさ以外吹っ飛んでいたんです。そんな中での、初めてのコミケだったんです。

 偶然、隣が『デンキ街の本屋さん』(KADOKAWA)の水あさと先生のサークルで、場所を間違えて段ボールを開けて設営しちゃったり、見本誌票を忘れちゃったり、土下座モンの迷惑をおかけしました。

 そんなドタバタしながらの参加だったんですけど、すごい早さで完売して……号泣してしまったんです。

 こんなに自分を認めてくれる人がいるんだと思って。

 そうしたら、うれしいような申し訳ないような気持ちになって……。結局、無意識下では、ぼくもそこまで楽観的じゃなかったってことですよね。楽しさで吹っ飛んだように見えても、いざ作品を携えて机に並べる、本当に売れるだろうかと待つ。どこかで怖かったんです。自分は、何になれるのだろうか。これからの人生はどうなるんだろうか。そんな自分の気持ちを受け止めてもらえた気がして。そうしたら、涙が止まらなくなって……本当に、ボロボロと泣いてしまったんです。後からレポマンガでは「皆さんから頂いたものは、本当にたくさんありました。それは、売上でした」と、茶化して描いたんだけど……そこにも、たくさんの人がコメントをくれて……「ハハハ正直だ」「お金は大事ですよね、火鳥さんらしい」とかね。日頃の行いのせいか、照れ隠しには誰も気付きませんでした。

 本当に、コミケは……あんないい場所ってないですよね。今でも人生のもっとも楽しい場所はコミケですよ。

 * * *

 同人誌を描き、即売会に参加することは楽しかった。そして、楽しさと共に火鳥は東方の同人で活動する人気作家となっていった。さまざまな雑誌の編集者が、火鳥に名刺を切り、仕事を依頼した。中には、自衛隊の広報マンガという一風変わった仕事もあった。作品を描くことは楽しかった。楽しいけれども、マンガ家には、なりきれていない感覚もあった。マンガ家が一人前として認められる一つのハードルが、月刊誌や週刊誌など、出版社から定期刊行される媒体で連載を持つこと。

「えっ!? メイド長のパンツの串揚げは」「大阪では二度づけ禁止!?」
(2016年10月開催の同人誌即売会「東方紅楼夢12」のためのサークルカット)

火鳥 人生に不安はありました。けれど、駄目人間なので、なんとかなるだろうとも思っていました。

 東京に出てきた理由の一つは、結婚したことです。ぼくの性格では、それくらいのきっかけがないと東京には出てこなかったでしょうから、よいタイミングだったと思います。これを機に全てをプラスの方向に動かしていきたいですね。経済的なことを考えても、ページ数の少ない『快楽ヒストリエ』だけでヒイヒイ言ってる場合ではないですから。

 考えることは、いっぱいあるけれど『快楽ヒストリエ』を描くのは楽しいです。やっぱり、歴史はいろいろと思いを馳せることができるから、面白いんですよね。単行本にする時に、解説ページをつくったんですけど、調べていると描きたくなるネタはいっぱいあります。読んでくれている方にも、毎号「次の作品を読みたい」と、思ってもらえたらうれしいです。

 でもね……何巻も続くような作品ではないとも思っています。次第にネタはかぶってくるだろうし……だから、どうやって終わるかも、ある程度は考えてあります。

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