『快楽ヒストリエ』マンガ家・火鳥《楽しい日々》へのささやかな恩返し

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 連載が始まったのは「快楽天ビースト」2016年5月号。単行本の巻末には、雑誌掲載時の号数が記されている。単行本では、原始編以降、日本の歴史をテーマにした作品を時代順に追った上で、世界の歴史をテーマにした作品へと並べられているが、実際の掲載順とは異なる。だから、改めて雑誌掲載順に読んでいくと、新しい発見がある。回を追うごとに、丁寧に描かれた歴史物語のようにキャラクターが生き生きとしていく。とりわけ、生き生きさが増すのは、デフォルメされたモブたちの様子。新撰組に強襲される池田屋に集う尊王攘夷派の志士ならぬエロマンガ家たちであったり、民衆たち。そうした有象無象たちの存在が「真実の歴史」のような錯覚を読者に与えているのだ。

「エロマンガをみんなで読むためだけに集団・定住化したワシらに稲作など無理じゃて」
「これ高床式倉庫。虫やカーチャンたちからエロマンガを守るために片手間でつくった」
(単行本収録・古代編)

火鳥 物語の方向性が固まり始めたのは、モブを描くようになってからかもしれないですね。

 第1回の「原始篇」を今振り返ると、主人公やヒロインは「エロマンガに夢中な変人」という感じ。でも、回を重ねていくうちにエロマンガに熱狂するモブたちが出しゃばってきて、描いている自分も何かをつかんだんです。「全世界エロマンガ第一主義」という素敵な世界観をしっかり示すのが、『快楽ヒストリエ』という作品なのだと。

 その上で、馬鹿馬鹿しい作品を支える一番大事なことは、マジメな資料集めだと思います。とは言っても、たった10ページの連載ですから、赤字にならない程度にね。図書館が最大の味方です。ネットも大いに役立ててはいますけど……、専門書に比べると、ネットには、かいつまんだ情報が多いし、ウソかホントかわからない話も多いので、やっぱり本を読んでおくと安心します。Wikipediaの記事なら、参考文献から主要なものを選んで、自分も目を通しておくとか。もともと歴史の知識はさっぱりなんですよ。なので、連載前に懸念していた通り、そこが毎月の苦労です。

 その点で言えば、編集さんのほうが学があるので、毎回相談しています。単行本ではアオリ文の類は消えちゃってますけど、戦国編の雑誌掲載時、ハシラに「月さびよ明智が人妻の咄せむ…末期のエロス特集号」という句が突然増えていて感心しました。知的だなあって。ぼくも対抗するように翌月、小早川秀秋の持つエロマンガに「三条河原で晒し乳首」と書きました。以来、作中に登場するエロマンガでの歴史ネタは恒例になっているので、これらの言葉遊びも『快楽ヒストリエ』の世界観を支えているのかもしれませんね。

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 現在、火鳥は31歳。一昨年、千葉に居を構えるまで、ずっと札幌の実家で暮らしてきた。父母と祖父母、それに姉一人。高校生の頃は曾祖母もおり、7人家族だった。マンガ家を目指すまでの人生を聞いた時、火鳥は内気だった幼い頃からの自分のことを、克明に語り始めた。

「おいしいけど……みんなで行ったバーミヤンのほうが、あたたかかったな……」
「カァーーッやっぱ、うめーもんはうめえ!! 仲間なんてただの飾りだな!!」
(「東京火鳥旅」2009年3月14日 pixivに投稿)

火鳥 祖父は若い頃、樺太に住んでいて……。戦争で命からがら脱出したあと、まだ炭鉱で栄えていた夕張に流れて、教師の職を得たそうです。それから、つてをたどって運良く札幌に。

 だから、ぼくは札幌しか知らないんです。でも、それも偶然のなせることだなって思いますね、祖父の話を聞いていると。もしかしたら夕張に生まれていたかもしれない。あるいは、祖父が海の藻屑に消えて、ぼくは生まれなかったかも知れない……。

 幸い、こうしてマンガ家になれた今、思い出すのは子どもの頃の記憶です。物心付く頃には、もう絵を描くのが好きでしたね。

 でも、その頃はマンガ家よりも「画家」になりたかった。なぜかっていえば、画家のほうがカッコイイ気がするから。それだけ。みんなお姫様とかロボットとかを描いている中で、ぼくだけすまし顔で風景画を描いていたら、すげえカッコイイじゃん……みたいな。早すぎる中二病ですよ。

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