ホラー映画レビュー!

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』古き良き80年代ホラーがモダンホラーに昇華!絶対的恐怖・ペニーワイズがトラウマすぎ……

2017.11.09

『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』公式HPより

 アメリカないし、世界的にも最も成功したホラー小説家であるスティーブン・キングの数ある作品の中でも、最恐と名高い『IT』が映画化された。

 実際には1990年に一度TVシリーズ化されている。TSUTAYAなどのレンタルショップにもDVDが普通に置かれているので、観たことのある方も多いことだろう。原作のITは大人の視点と子供の頃の視点が激しく入れ替わって物語が展開されるのだが、90年版はふたつの時間軸を切り分けて別々に描くことで『IT』を描き切った快作であった。

 全米をトラウマに植え込んだ恐怖のピエロ“ペニーワイズ”を、ホラーカルト映画『ロッキー・ホラー・ショー』で知られるティム・カリーが演じ、独特の世界観でさらなる恐怖を視聴者に与えた。

 今回のリメイク版『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』は、初の劇場版である。90年版はトータルで188分という長さで描いたが、劇場版となるとそういうわけにもいかない。そこで今回は子供時代にだけ焦点を当てた作品となった。しかし、そうすることでより物語がソリッドになり、子供が恐怖する対象、単純な暗闇や人形、そしてピエロなど、そこに存在するだけでなぜか放たれる絶対的恐怖が、はっきりとした輪郭を持って観ている者に襲い掛かるようになっている。

 舞台は原作の1950年代から1988~1989年に移されている。これは非常に上手くいった改変であった。というのも、1950年代の子供たちが感じていた恐怖の対象と、1980年代の子供が感じていた恐怖の対象は、まるで異なるからだ。今作を監督したアンディ・ムスキエティはまさに80年代を過ごした人であり、観客がまさに子供の頃だった時代の現実を、完全に捉えることに成功している。だからこそ、より恐怖はおとぎ話のようにならず、誰もが必ず経験した隣り合わせの恐怖を描くことができたのだ。

 映画の中にも80年代が当然ながら色濃く反映されている。部屋や街に飾られたポスターが『グレムリン』だったり、『バットマン』だったり、スラッシュメタルバンドのアンスラックスやメタリカのTシャツを着ていたり、懐かしさを醸し出させるのだ。そういった演出が徹底されており、それもこの映画を面白くさせる要素のひとつであることはまちがいない。

 絶対的恐怖の対象であるペニーワイズは90年版から大きくビジュアルに変更が加わり、よりモダンでありながらも悪魔的で、しかし子供っぽくもあり、そしてピエロのどこかひょうきんな要素が持たせられている。今作のペニーワイズは少し外斜視気味に描かれているのだが、なんとこれはペニーワイズを演じたビル・スカルスガイドが自力で表現しているというのだから驚きだ。

 いつどこから現れるか分からない静かな恐怖とおどろしさ、夢か現実なのか区別ができない混沌とした世界観は、どこか『エルム街の悪夢』的な一面があり、明らかに古き良き80年代ホラー映画を踏襲している。それでいて、CGをはじめとした映像技術の進化とペニーワイズことビル・スカルスガイドの怪演が合わさることで、クラシックで古典的なホラーでありながらも、アメリカン・モダン・ホラーに昇華させているのだから、怖くないわけがないのだ。

 ただし、あくまでハリウッド的ホラー映画であることはことわっておきたい。日本の『リング』や『呪怨』の恐怖とはまるで異なる。今作の『IT』は完全にお化け屋敷的ホラー映画だ。いつどこで出現するのか分からないあのドキドキと、圧倒的なスーパーナチュラル的な存在が畳みかけてくる恐怖だ。その前では理屈すら全て捻じ曲げられる。なので、日本的恐怖を求めるのは少々筋ちがいだ。古き良きハリウッドホラー映画のジェットコースター感と、お化け屋敷感を楽しむためのものが今作なのである。

 『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』のPVが公開されるやいなや、24時間で1億9700万回も再生された。現実世界にもピエロが出現し、風船が下水溝に取りつけられるという現象が起きたとか。ペニーワイズの復活周期は27年となっている。90年版『IT』から今作がちょうど27年。これは偶然ではないだろう。「それ」は映画としてではなく、本当に実在する恐怖として帰ってきてしまったのかもしれない。
(文=Leoneko)

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