「聖地巡礼」ブーム衰えず!『ヤマノススメ』擁する「新聖地埼玉」飯能市に聞いてみた

2017.10.07

 近年では実在する町の風景が、劇中でリアルに描写されて登場。その背景に興味を持った作品のファンが現地を訪れる――アニメやマンガ、ゲームに興味がなくても、テレビや新聞といった一般メディアでニュースとして取り上げられるので、耳にしたことがあるという人も多いであろう「聖地」「聖地巡礼」。

 アニメやゲームの舞台=「聖地」として登場した自治体が、観光振興の資源としてコンテンツ供給元(アニメの製作委員会や、出版元など)と協力関係を結び、多種多様な試みを催すことも珍しくなってきているが、なかでも熱いのが埼玉県だ。

「霊地」「聖地巡礼」という単語が定着するのに大きな役割を果たした『らき☆すた』(埼玉県鷲宮町:現久喜市)、今や国民的アニメの『クレヨンしんちゃん』(春日部市)、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(秩父市)など、埼玉を舞台としたアニメやマンガ作品の枚挙に暇がないほど。そんな埼玉アニメ・マンガで、現在最も活発な動きを見せているコンテンツのひとつが『ヤマノススメ』。

『ヤマノススメ おもいでプレゼント』キービジュアル

 女の子4人のゆるふわ登山・アウトドアライフを描いた『ヤマノススメ』は、イラストレーター・しろの同名マンガを原作に、まず2013年1月から1話5分のアニメ・全12話を放送。ショートアニメながら好評を博したことで、14年7月から12月にかけて、放送枠を15分に拡大して全24話を放送。またもや高い評価を受けて、今秋からはOVAを発売&イオンシネマにて上映開始、そして18年にはTVアニメ第3期の放送を控えているという、根強い人気を獲得したアニメだ。

『ヤマノススメ』の舞台として描かれている埼玉県・飯能市も、活発に数々の企画を実施。昨年度からはふるさと納税の返礼品にも『ヤマノススメ』グッズを採用するなど、積極的にコンテンツとの協力体制を築いているが、もともとお堅いイメージがある自治体側は、どうアニメ・マンガコンテンツに向き合っているのか。アニメやマンガに興味がない市民から苦情の声などあがったりはしていないものか。飯能市・市民生活部賑わい創出課に、『ヤマノススメ』との取り組みについて尋ねてみた。

「まず最初は11年ごろに、アニメの製作委員会さんのほうからご連絡をいただきまして。飯能市が舞台のマンガをアニメ化したいということで、制作協力というか、ロケハンに協力させていただきました――原作マンガで描かれていた場所は当然として、新たな観光スポットになり得るのではないかというオススメスポットをご案内するところから始まり、市側でも作品のPR活動を始めました。

 こちらとしても当初から前向きでした、何せお隣の秩父市が舞台のアニメ、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』がちょうど盛り上がっていたのを、横で拝見していましたから。そういったお話があればぜひ活用しなければ、という認識が担当者には当初からあったみたいです。県内の自治体が先行していたのはとても大きかったです」

 アニメやゲームファン=いわゆるオタクたちによる「聖地巡礼」が流行し、一般層にまで知れ渡るようになったキッカケの一つ『らき☆すた』を筆頭に、なぜだか埼玉県を聖地とする人気作品が多かったこともあってか、00年代後半から埼玉県は全力で「アニメで観光振興」事業に乗り出している(なお、オタクによる『聖地巡礼』の元祖的存在は、長野県大町市が舞台のアニメ『おねがい☆ティーチャー』とする説も)。

 観光情報サイト「埼玉ちょ~でぃーぷな観光協会」の立ち上げ、09年には「埼玉県アニメツーリズム検討委員会」も設置。埼玉が舞台とする作品が集うイベント「アニ玉祭(アニメ・マンガまつり in 埼玉)」を13年から毎年開催、さらに県内の埼玉県の公式観光サイト「ちょこたび埼玉」では、埼玉県内のアニメ関連イベント、作品を紹介する専門ページも用意。

 そして15年には「浦和の名がつく8つの駅」をモチーフとした『浦和の調(うさぎ)ちゃん』という、オリジナルショートアニメがテレビ埼玉で放送されたほど。県内の各市町村でも数々のイベントなどが行われているほか、西武鉄道や東武鉄道など県内を走る交通機関とのコラボイベントも活発。それだけに、飯能市も当初から『ヤマノススメ』と積極的に交流を深めていったという。

「連絡をいただいた翌年の春から、市役所の人間と、市内に店舗や事業所を構えていらっしゃる企業さんがたと一緒に、『飯能アニメツーリズム実行委員会』を設立しました。そこを基点に、お祭りやイベントのときにアニメにからめた催しを考えてみたり、ファンミーティングのようなイベントが行われる際はすこしご協力させていただいたりしています。

 ただ、『飯能アニメツーリズム実行委員会』以外でも個別に、たとえば飯能駅近くの商店街『飯能銀座商店街』さんなどは、イベントが飯能市で開催されるタイミングにあわせて歓迎フラッグを用意して飾られたり、パネルを展示されています。地元の皆さんも、作品の認知度があがるにつて、積極的に応援されるようになったと思います」

 アニメの製作委員会が開催するオフィシャルなものから、ファンの有志によるイベントまで、市内でイベントが多数開催されたほか、作中で登場した天覧山など観光地へ、主に若い男性観光客が多く訪れるようになり、かなりの手応えを感じているとのこと。ただ、観光客が多数訪れるようになると、ゴミの投げ捨てやマナーの悪い観光客が出てきてしまい、地元住民からの批判を招きがち。

 また、『ヤマノススメ』は美少女4人が可愛く登山を楽しむという、非常に萌える作品だ。良かれと思って起用された萌えキャラクターが、一部からの反発を集めてしまうなど、美少女キャラに世間の風はときに強く吹く場合もある。飯能市ではそのあたりは大丈夫なのだろうか?

「市に、具体的なそういった声が届いたことはありません。個人的に飯能へ来てくれるファンの皆さんは、マナーがいい方が多いなという印象がありますし、市内の事業者の皆さんにヒアリングもしますが、『あの子たちはいい子が多いから、大事にしたほうがいい』と言われたり。たとえば山でペットボトルを捨てていった、みたいなお話を聞くこともほとんどないんです。作品を通じて、作品とあわせて飯能市のことも好きになってくれているのではないかなと思うと、本当にうれしいですね」

 なお、先述のとおり、飯能市では昨年度から「ふるさと納税」の返礼品に『ヤマノススメ』グッズを用意している。どれぐらいの反響があったのだろうか。

「種類を多数用意していますので、個々のグッズについては触れづらいんですが……全体的なことをいえば平成27年度のふるさと納税額は約397万円でした。それが『ヤマノススメ』グッズを取り扱い始めた28年度は、約1億6,700万円とざっくり42倍程度に増額するなど、『ヤマノススメ』グッズは相当な反響をいただきました。29年度も返礼品の公開当初からかなりの反響をいただいて、すでにかなりの数の申し込みをいただいています」

 飯能市内には童話『ムーミン』の原作者、トーベ・ヤンソンの名前を冠した、北欧の童話の世界をモチーフにした公園「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」が存在し、さらに19年春には『ムーミン』のテーマパーク「ムーミンバレーパーク」も開園予定とあって、『ムーミン』グッズも返礼品として用意されており人気が高いそうだが、それでも驚異的な伸びだ。

 歌舞伎や落語、小説や映画など、大昔から創作物で描かれた場所を訪れるという観光客は存在していた。それが「聖地巡礼」として脚光を浴び始めて以降、アニメの聖地として成功を収めた自治体もあれば、うまく結果に結びつかなかった例もそれぞれ存在する。

 作品が人気を獲得するのが大前提としてあるが、話題になった“聖地”は、観光名所や名物、それに伴う宿泊施設や土産処なども多かったり、観光地としてもともとポテンシャルが高いところばかり。そのうえで作品の魅力や客層を、出迎える自治体や地元商店などが理解し、訪れるファンと友好的な関係を築けるようになると、より聖地として魅力が高まるのだろう。

 なお取材に対応してくれた市民生活部賑わい創出課のご担当者(女性)は、『ヤマノススメ』推しキャラはここな。「ここなちゃんには、男女を問わず見ている人のハートをわしづかみにする魅力がありますよね」とのこと。作品理解度もバッチリであった。

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