【劇場アニメレビュー】『君の名は。』再来なるか?東宝・川村PD×新房&シャフトの『打ち上げ花火』レビュー

 かくして、ようやく完成したアニメーション映画『打ち上げ花火 下から見るか? 横から見るか?』だが、いざ見始めてしばらくの間は、こちらの期待が過剰に高すぎたせいか、原作のTVVドラマに素直に即した展開と、新房作品ならではのサイケな映像センスも影を潜めてオーソドックスな絵柄で物語が進んでいくので、どこか拍子抜けした感も否めなかった。

 だが、少しずつそういった流れにこちらも慣れてくると、次第に本作が少年の目線で異性たる少女を、ときめきおののきながら見据えていく思春期映画として屹立していることに気づかされていく。原作ドラマでは小学校高学年という設定だったが、今回は中学生に変更してることで、その意向はなおさら強まっている。

 最初の頃は、ヒロインなずなの描き方が妙に深夜アニメ風なエロっぽいアングルで捉えられていたり、お決まりの微妙な胸の揺れ具合など、こんな表現をメジャーな映画でやって大丈夫かいな? と心配したりもしてしまった。だが、ある瞬間ふと、この作品があくまでも思春期を迎えたばかりの少年の目線で貫かれていることに気づかされるや、同級生少女の胸のふくらみなどの色香が妙に気になりだしたり、一方でそういった思考が卑猥に思えて自己嫌悪に陥ったり、ついには彼女らとまともに目を合わせるのが恥ずかしくなっていくといった“あの頃の自分”を思い起こしてしまうとともに、俄然この作品の繊細な趣に引き込まれてしまったのである。

 そもそも、原作ドラマにおける岩井監督のヒロイン(奥菜恵)を見据える目線もまさにそれであった。ただし、今回女性客がこういった描写を見てどう思うかは、聞いてみたいところではある。世代によってもかなり印象は異なることだろう。

 やがて原作ドラマで描かれていたパートから、ドラマは徐々にアニメオリジナルの展開へと突入していく。それが具体的にどういったものであるかはネタバレになるので書くことはできないが、一つだけ確実に言えるのは、そもそもの原作ドラマの基点となる“if もしも”という要素が、本作では「こうあってほしかった」といった悔恨の念ではなく「こうなるかもしれない」という少年少女の未来の可能性の拡がりを示唆していることである。

 振り返るに、原作ドラマにおける“if もしも”という要素には、70年代のNHKの「少年ドラマシリーズ」以降顕著であった、時を行き交うSFジュヴナイルものの影響が多分に感じられてならないのだが、そういった時空の超越は時間を自由に操るのではなく、逆に時間の呪縛に遭うものが圧倒的に多い。それは大林宣彦監督の『時をかける少女』(83)も、その続編的資質まで備えた細田守監督のアニメ映画版(06年)も同じだが、今回の作品に関していえば、その呪縛を突き破っている。これは原作の岩井俊二、脚本の大根仁、総監督の新房昭之、それぞれがやはりSFジュヴナイル世代であることとも無縁ではないように思えてならない。

 ドラマ後半における映像センスも徐々に新房作品ならではの幻惑的な(しかしながら今回はさすがに悪夢的にはならない)ものへとシャフト、いやシフトしていく。クライマックスのカタルシスなど陶酔しまくり、観賞後の余韻からしばし覚めたくなくなるほどだ。

 ヴォイス・キャストとしては、広瀬すずの上手さは『バケモノの子』で把握していたが、今回はそこにほのかなエロティシズムを醸し出す好演で、中盤、実は80年代アイドル世代の脳天を直撃するものすごいシーンも用意されている(私はそこでノックアウトされた)。

 また今回は菅田将暉の初々しさと芸達者なところを両立させた声の演技にも魅了される。ホント、『仮面ライダーW』からインディーズ映画の秀作群、そして実写版『銀魂』にアニメの中学生男子まで、何でも多彩にできる若手だなと、改めて感服。これはこれでまた女性ファンは増えるのではないか。

 もっとも、宮野真守をはじめとするプロ声優陣のサポートも実に巧みで、やはり彼らの支えあってこその好演なのだなと、そのアンサンブルの良さにも唸らされた。

 神前暁の音楽の良さもさることながら、エンドタイトルの主題歌『打上花火』の余韻が、鑑賞後に場内が明るくなって、そのまま電車に乗って帰宅するまでずっと離れない。それどころか、そのメロディを思い返せば返すほど、ジワジワと作品の感動が色鮮やかになっていく。

『君の名は。』に続き、東宝はまたも快挙を成し遂げた。あとはどのくらいヒットするかだが、さすがに『君の名は。』はもはや例外中の例外としても、それに続く大ヒットを祈りたいものである。

 いいもの見させていただきました。
(文=増當竜也)

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