投じた予算は3900万円超 下津井~『ひるね姫』の旅路で見た「聖地巡礼の魅力は作品よりも人」という事実

 下津井が映画の舞台になったという点で、働きかけた倉敷市は大きな成果を挙げた。けれども、それをどう活用すべきかという点には想いが足りなかった。もちろん、市もアニメの舞台となれば、勝手に客が来るなんて思ってはいなかっただろう。ただ、どうすれば、アニメを観た人に観光に来てもらい、楽しんでもらうことができるのか。そして「また来てみたい」と思わせることができるのか。その視点は不足していた。

「市も活用の仕方を知らないんですよ。やたら、チラシやポスターをつくるのだけじゃあ、だめだなあと思っています」

 こうやって聞いていくと『ひるね姫』を軸にした聖地巡礼、観光客を誘致して地域を盛り上げようという目論見は完全に失敗してしまったのかと思えば、そんなことはない。その効果は、観光客誘致とは違う形で確かに現れている。

「これをチャンスにして注目を集めることもできると思うんです。それに、下津井はいうなれば昭和の風情がそのまま残っている町です。この数年間『ひるね姫』だけでなく、さまざまな試みを繰り返しやってきました。それが、次第に地元に浸透してきているように感じているのです」

 私が尋ねた日は、午後からは『ひるね姫』のギターアンサンブルのコンサートが開かれる予定でもあり、客の数が多かった。その多くは地元の人たち。そうした人々の姿からは、自分たちの住む町の魅力に気づき、これから何かできるかもしれない。あるいは、そんな町に住むことができていることの楽しさを分かち合いたいという想いが感じられた。

 ただ、そうした風情のある街並みも想いだけではどうにもならないものがある。廻船問屋のすぐ近くの歴史ある建物も、取り壊すことが決まっており、どうにか保存を考えている最中だと、矢吹氏は言うのだった。

 私は廻船問屋を出て、下津井の町を探索した。小さな港町は、くまなく歩いても2時間もかからない。『ひるね姫』の舞台になった場所には、案内が出ているが、それだけを目当てに歩き回ろうとは思わなかった。風情のある路地や、高台にある神社仏閣。どこを歩いても町は興味深い。路地に迷い込めば、そこにはまだ誰も発見しない宝物がある迷宮。そんなワクワクした気分を十二分に味わうことができる町。それが、下津井なのだと思った。

 でも、そうした気分を味あわせているのは、昔のものだけではない。人である。偶然のバスの運転手の会話から、思いもかけない取材へと。そうした、人との出会いが、私の目に下津井をいっそう興味深く見せていたのだ。

IMGP3209.jpgポツンとレトロな資料館が存在してるのではなく周囲もレトロな雰囲気が続いている
IMGP3212.jpg時が止まったような街並みが続いているので歩いているだけでも楽しむことができる。ただし、飲食店はほとんどない
IMGP3223.jpg街のあちこちに古い祠があったりするのも特徴。なにか有り難い気分を味わうことができる
IMGP3226.jpg無理矢理復元したようなつくりものではない、本当にレトロな街並み。人が少ないのが逆に心地よい

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