投じた予算は3900万円超 下津井~『ひるね姫』の旅路で見た「聖地巡礼の魅力は作品よりも人」という事実

■地元住民は『ひるね姫』をどう見ていたのだろうか

IMGP3199.jpg「むかし下津井回船問屋」はかつて北前船で栄えた雰囲気を現在に伝える施設である

 バスを降りると、そこには幾本もの、のぼり旗が立っていて、すぐにたどり着くことができる。漁港を横目に、案内図に従って歩くと、そこには昭和のような古い町並みが現れる。その中に「むかし下津井廻船問屋」がある。見学は無料。受付のところを見ると、畳のような織物でできた、『ひるね姫』のキャラクターをあしらった小物入れが売られていた。その反対側には、キャラクターの衣装。小物入れをひとつ買い求め、窓口の女性に尋ねてみる。

「あの~、下電の運転手さんが、ここで館長さんにいろいろと聞けと教えてくれたんですけど」

「はい、ちょっとお待ち下さいね」

 事務室を兼ねた窓口から出てきた女性は、すぐに館長を呼びにいってくれた。

「館長、ご指名ですよ~」

 やってきたのは、多くの知識と経験を持っていることがひと目でわかる初老の男性。

 私が自己紹介して、バスの運転手にアドバイスされたことを告げると、その男性──館長の矢吹勝利氏は言った。

「ああ、彼は地元の人間でね。自分で観光ガイドのようなこともかっていて、下津井を尋ねて来た人を見ると、いろいろと教えているんですよ」

 そうして、突然尋ねて来たにもかかわらず、矢吹氏は私に『ひるね姫』にまつわる実情を、何も隠すことなく教えてくれた。映画そのもの感想もそれだ。公開にあたって、地元でも住民を対象に上映会が開催されたそうだが、決して誰もが手放しで映画を賞讃したわけではなかったのだという。

「対象年齢とか、今ひとつ描ききれてはいない……“ようわからなんだ”という人が多いんですよ」

 そんな率直な言葉に、私も少し戸惑った。作品を使った町おこしをしているならば、たとえ本心では「これは、面白くない」と思っていても、何か誤魔化したり、お仕着せの言葉で飾ろうとするもの。そんな意志は言葉の中からは、まったく感じられなかった。

 ふと思ったは、これも下津井が長らく港町として長い歴史を育んできたからではないかということだ。下津井から少し離れた玉野市に、宇野という町がある。かつては鉄道連絡船の通っていた港町である。岡山の郷土史に数々の著作を残す岡長平の、どの本だったかで旅芸人にとって宇野の客は非常に厳しく、宇野でうければ岡山では必ずうけるとされていたということが記されていた。

 大勢の人が行き来する港町には、無数の文化が行き交う。そこに住む人は、さまざまな新しいものや珍奇なものに触れるのが当たり前。だから、自然と興業のたぐいを見る目は厳しいというわけである。作品には辛辣ともいえる言葉と共に、映画で下津井が描かれたことへの喜びもある。

「自分もここまで下津井が取り上げられるとは思ってなかったんですよね。監督は最初は、尾道を舞台として考えていたようですが、思いが通じて下津井を舞台にしてもらえたのは市の采配ですね」

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