■あまりにも親切すぎる下電バスの運転手
そんな町を歩いているうちに、瞬く間に時間は過ぎる。やってきたのは下電が運行する小型のバス。当然というべきか『ひるね姫』のラッピング仕様。けれども『ひるね姫』を目当てにしたような乗客は、まったく見当たらない。
発車まで、しばらく時間があったので運転手に話しかけてみようと、一番前の座席に座った。
「運転手さん『ひるね姫』を目当ての観光客は多いんですか」
私が訊ねると、運転手は答えた。
「あまり来てないですね。どうも散ってしまった感じはあります」
「えっ?」
「ほかにも『君の名は。』とか、ライバルのような作品が多いじゃないですか……実感としては少ないと思います」
「せっかく、干しタコのような名物も出てるのに」
「あれもね、冬のものじゃから」
「ウチのオカンもようたけど、干しダコよりも、イイダコのほうがええじゃろう」
「ああ、昨日も食べたんじゃけど、煮て食べると美味しいよなあ」
最初に『ひるね姫』の話題を振ったことに、ピンと来たのだろうか。運転手は、こんなアドバイスをくれた。
「廻船問屋があるじゃろう。そこで、矢吹さんゆうて館長さんが詳しく教えてくれるから、いろいろ聞かれえ」
廻船問屋とは、下津井にある「むかし下津井廻船問屋」という資料館である。そういうのがあることは、以前から知っていたけれども、私は行ったことがなかった。
「どこで下りりゃあ、ええんなら」
「私、この先のバス停で交代なんじゃけど、次の運転手に廻船問屋といわれえ」
そういって、バスは出発した。その次のバス停で「休憩のため、交代します」とアナウンスして下りた運転手が、交代の運転手に「あのお客さんを、廻船問屋で下ろして」と伝えているのが窓の向こうから聞こえた。
ジーンズの町らしく、運転手もジーンズ姿のバスは、ゆっくりと進んでいった。車内には、録音されたアナウンスで『ひるね姫』のロケ地案内。そして、スタンプラリーのスポットの案内が次々と流れていく。幾人かの乗客は、みな地元の人らしく観光客の姿は少ない。途中、毎日サンバカーニバルが開かれている「鷲羽山ハイランド」にも寄るが、乗り降りする人もいない。車社会では、わざわざ電車とバスを乗り継いで、遊園地に行こうという人も少ないだろう。
バスは、よく晴れた瀬戸内の情景の中、鷲羽山から下津井への町へと下っていき、20分ほどで「むかし下津井廻船問屋」の目の前にある下津委漁港前の停留所へと到着する。
投じた予算は3900万円超 下津井~『ひるね姫』の旅路で見た「聖地巡礼の魅力は作品よりも人」という事実のページです。おたぽるは、アニメ、話題・騒動、聖地巡礼、昼間たかし、ひるね姫 ~知らないワタシの物語~の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
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