アニメ業界のブラック労働を鋭く切るはずだったのに……消化不良だったNHK「クロ現+」

 2兆円産業にまで発達したはずが、肝心の制作現場に資金が回ってこない、環境の改善ができない、という話題について論じていたのに、その流れで「デジタル技術を使いこなして、うまいことまわしています」というアニメ制作会社の現況を紹介しては、「ブラック労働を強いられているのは、現場の創意工夫が足りないせい」と、視聴者が受け取ってしまいかねない構成だ。

 成功例を出すのなら、番組前半で手描きアニメーターらしき若手の阿久津くんを取り上げていたのだから、手描き(2D)主体のアニメを制作していて、なおかつ成功しているアニメ制作会社の取り組みを紹介すべきではなかったか。

 それでもポリゴン・ピクチュアズ、サイエンスSARUを紹介したいのであれば、2Dと3Dで制作環境にどれぐらい違いがあるのかをまず説明すべきではないか? その上で現在、放送・上映されている作品数や、アニメファンの支持をどれぐらい受けているかを解説しないと、映像の流れとしてはやや不自然だったと思う。NHKが、制作現場が苦しいのは制作現場の努力不足と結論づけたかったのであれば別だが……。

 番組終盤、スタジオにカメラが戻り、“日本のアニメ産業 未来につなぐために”入江氏、渥美氏がフリップで提言を行うのだが、渥美氏の提言は「『A愛』依存から『AI』活用 アニメーターへの投資」。これにはネット上から「アニメーターを首にして、AIを活用しろってこと?」「結局、コストカットの話かよ!」と突っ込みの声が。

 番組内でせっかく“製作委員会”について説明しているのだから、制作費がどれぐらいかかり、“製作委員会”メンバーが各々どれぐらい出資し、そして利益をどうやって分け合っているのか。そして広告に頼らないNHKだからこその切り口――広告代理店がどんな役割を果たしているのか、TV局でアニメを放送するために、製作委員会がどれぐらい支払い、あるいは放映権料を受け取っているのか? といったところに突っ込んでほしかったのだが、結局、現状の問題を確認(しかも数字はJAniCAの白書と数名へのインタビューが出典元のほとんど)しただけ。どうにも中途半端な番組だったな、というのが正直な感想である。

 なお、ネット上では、番組最後に「NHKが制作費を倍にしてくれればすべてが解決する」と男らしくコメントした入江氏や、関係者とおぼしき番組視聴者の「NHKのアニメ制作費の安さは業界での頭痛の種だったものな!」といった類のTwitterでのツイートが多くの賛同を集めていた。ニュースやドキュメント番組では民放とはケタ違いに高い制作費を使うことで知られるNHKだが、反面、アニメの制作費は低めであるという声が以前からネット上ではささやかれていた。

 老舗のアニメ制作会社で、NHKで放送されたアニメ『はなかっぱ』などを制作していた「株式会社グループ・タック」が10年9月に倒産した当時も、NHKの名前をあげたファンもいた。今回の「クローズアップ現代」の踏み込みが浅く感じられたのも、もしかしたらNHKに自覚があったせいだったのかもしれない!?
(文・馬場ゆうすけ)

アニメ業界のブラック労働を鋭く切るはずだったのに……消化不良だったNHK「クロ現+」のページです。おたぽるは、アニメ話題・騒動の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!