『笑ゥせぇるすまんNEW』第8夜 シナリオライターは、なぜファンタジーな武器で刺殺されたのか

■ファンタジーな武器で刺殺された夢見

 最後は刃物で刺されてしまった夢見。『NEW』には、最後、現実世界で自分自身が描いていた原稿通りに事が進んだ描写が追加されている。確認すると、ワープロ(!)の画面は「ギラリと光るナイフの切っ先」と書かれていた。

 新旧を比較すると「ナイフ」の形状は変化している。

マンガ→果物ナイフっぽい
『NEW』→鍔付きで短剣っぽい

 マンガ版で麻夢子が持ち出したのは普通の家にもありそうなタイプ。
『NEW』は、ナイフをふところから出したとき「シャキン」って鳴っていたことから、鞘に収まっていたことが分かるし、取り出したナイフには鍔がついていた。鍔といえば、柄を握る手が誤って切れないようにするための部分だ。RPGとかで盗賊やアサシンが装備してそうな殺傷用の形をしていた。

 自分の書いた原稿通りに夢見は死んだ。だが、使われたのは文字通りの刃物ではなかった。
 時代が進み、わざわざ新しくシーンを付け加えたのに、リアリティを後退させたように見える。なぜなのか。夢見がPCではなく、ワープロで原稿を執筆していることもひっかかる。

 そんじょそこらのスーパーマーケットで買ったような果物ナイフを持ってきたマンガ版麻夢子と、ゲームの中の武器屋さんでしか手に入らない短剣を持って現れた『NEW』麻夢子……。

『NEW』の夢のなかでナイフは、さまざまな物語を取り込んで短剣になった。ワープロはネットと接続することを目的としていない。PCは無限に外部に接続していく、それは人が制限なく夢をみることに似ている。
 PC時代のフィクションとして、むしろリアリティを進化させるために、原稿はワープロで書かれなくてはならなかった。
(文/山川悠

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