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劇場アニメ『BLAME!』は、監督の“実写的な感性”とアニメの魅力が融合された作品!?/瀬下寛之監督インタビュー

2017.05.20

■プレスコによって声と画がお互いを高め合っている

―― そういえば、かつて高畑勲監督がフル・デジタルで『ホーホケキョ となりの山田君』(99年)に挑まれていました。

瀬下 そうですね。プレスコならではのすごく独特な雰囲気だったという印象があって、とても好きな作品です。ちなみに、『山田君』のスタッフが、本作のプリプロの重要なポジションで活躍されていますよ。ディレクター・オブ・フォトグラフィーの片塰満則さんは、スタジオジブリのCG監督出身ですし。プロダクションデザイナーの田中直哉さんは数々のジブリ作品の美術監督です。『シドニアの騎士』から、ずっと一緒に仕事させていただいていますが、みなさん素晴らしい方々ですよ。美術監督の滝口比呂志さんも『言の葉の庭』(13年)など新海誠監督作品の常連ですし、音楽は菅野祐悟さんで音響監督は岩浪美和さん。……あらためて、つくづくスタッフに恵まれていると思います。

―― 音響の岩浪さんということでは、今回は最新音響システム“ドルビーアトモス”を採用した立体音響上映もなされるとか。

瀬下 ドルビーアトモス、これはすごいですよ! 音響自体が物語の空間を生み出しています。観賞可能な方は、ぜひ体験していただきたいですね。

―― 岩浪さんは『ガールズ&パンツァー劇場版』(15年)のセンシャラウンドファイナル極上爆音上映でも大活躍された音響監督ですので、今回も期待は大ですね。

瀬下 岩浪さんをはじめとする音響チームの音へのこだわりはものすごいです。音が作品の臨場感を何倍にも膨らませてくれているほどです。実際、彼らのおかげで、僕らの独特な制作手法も可能になっています。『シドニアの騎士』からずっとプレスコですが、工程としては、まずあらすじを作り、そこから脚本、そして場面設計へと進み、脚本・場面・配置演出(ステージング)の情報をまとめた「台本」というものを作成してからプレスコに入るのですが、そのとき画コンテは一切なし。

―― そうなのですか!?

瀬下 画コンテはプレスコをすべて終えて、その後からです。要するに、まずラジオドラマを作るんです。それ自体が面白ければ、そこに画が加わればもっと面白くなるはずだと。ですから、なおさら音響の岩浪さんやチームのみなさんの力がものすごく重要になってくるんです。

―― だからでしょうか。瀬下監督作品は声優の声がすごく活きているとでも言いますか、今回もアニメをメインとするプロの声優さんで占められていますが、いわゆるアニメ特有の声の臭いが、良い意味で感じられないですね。

瀬下 そういっていただけるとうれしいです。声優さんにはものすごく分厚めの台本を渡すのですが、そのト書きには相当量の場面状況や感情が記述されていて、さらに質問されれば、その声優さんが演じるキャラクターが場面上のどの位置でどう運動しているかを詳しく伝えます。セットがない状態での舞台演劇と似たような状況が生まれ、声優さんは自然とそのキャラクターになりきっていきます。その流れの中で彼ら自身のポテンシャルを引き出してもらうんですね。

 そして、引き出せば引き出すほど、録った音には目をつぶれば見えてくるほどに豊かな表情や動きが加わります。そして、それを聞いたアニメーターたちは、彼ら自身の想像力を強烈に刺激された状態でキャラクターの演技をつけていきます。結果として、演出がそれほど細かい指示を出さなくても、意図に近いもの、またはそれを超えるものすら出来上がってくるようになります。

―― メジャー劇場アニメ作品など、いわゆるアニメ声を嫌う製作サイドの意向で顔出しの俳優やタレントが起用されることは多々ありますが、瀬下作品を見ますとプロ声優だってちゃんと作品のテイストに即したリアルな声を出せるという事実を如実に知らしめてくれています。

瀬下 日本のプロの声優さんたちの技術は、世界最高峰のクオリティだと思います。ヴォイス・アクティングがこれほど進化している国って他になかなかないんじゃないでしょうか。みなさん信じられないほどの職人技です。僕自身『シドニアの騎士』でそのことに気づいて以来、声優さんのポテンシャルをさらに引き出すことを模索しています。

―― ずっとお話をうかがっていますと、やはり瀬下監督が実写映画感覚の人なのだなと思わされます。何よりもまずは役者ありきという姿勢。

瀬下 そうかもしれないですね。役者さんは本当に大事です。これからも自分の感性とアニメならではの魅力がうまく融合できていたらいいなと思います。

―― まさか今回の取材でセルジオ・レオーネの名前を聞けるとは思ってもいませんでしたので(笑)。

瀬下 サム・ペキンパーも好きです(笑)。僕は池袋育ちで、文芸坐をはじめとする名画座に自転車で通いながら、映画ばかり見ていました。また当時はロードショー館も入れ替えがなかった時代なので、おにぎり持参で『2001年宇宙の旅』(68年)のリバイバル上映を朝から晩まで繰り返しずっと見たり。今思えばおおらかな時代で、しっかりと僕のような映画中毒を育ててくれました(笑)。

―― でも、その映画中毒としてのキャリアが、今のお仕事に大いに役立っていらっしゃる。素敵なことだと思います。

瀬下 ありがとうございます。『BLAME!』も自分が思う普遍的な映画的歓びを、劇場用映画ってこうあってほしいと思う壮大さとかも含めて、意識的に詰め込んでみました。また今回は横長のシネスコ・サイズでやらせていただきました。これも劇場用映画ということでの、大きなこだわり……というか憧れのひとつですね。つまり、『BLAME!』ってそんな映画なんです(笑)。
(取材・文/増當竜也)

■『BLAME!』
配給:クロックワークス
公開:5月20日(土)より全国公開(2週間限定)
公式サイト :http://www.blame.jp/   
上映時間 :105分
(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

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