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劇場アニメ『BLAME!』は、監督の“実写的な感性”とアニメの魅力が融合された作品!?/瀬下寛之監督インタビュー

2017.05.20

■“当たり前の日常”をCGで描きたい

―― もともと瀬下監督は『大日本人』や『しんぼる』(09年)のVFX監督を担当されるなど、どちらかといえば実写畑のCGを担当されることが多かったような気もします。

瀬下 そうですね。僕自身、日本のアニメに深く関わるようになったのは、この5、6年のことで、それまではCMやゲーム、実写のビジュアル・エフェクトがほとんどでした。

―― そういった経歴もあってか、今回の作品では実写感覚が非常にプラスに作用しているように思われます。

瀬下 それしかできないんですね(笑)。ただ、自分の出自そのものが個性であるとも思いますので、実写のセオリーと、日本のアニメで求められている表現との融合を目指していければとも思いますね。

―― 実際、今の特撮やCGのクリエイターの多くは、実写・アニメといった垣根なく意欲的に活動されています。

瀬下 ビジュアル・エフェクト出身の僕自身、今こうやって伝統ある日本のアニメの端っこの方で関わらせてもらえているというのは、本当に光栄なことだと思いますよ。

―― そこで瀬下作品の特徴のひとつとして、まるで実写のように画の中の光を大事にしているというのが挙げられます。

瀬下 光はとても重要です。といいますか、自分の画作りの中で照明が一番大事ではないかと思っているほどで、ストーリーやキャラクターのエモーション、シチュエーションも照明を主軸に表現したいと思って、こだわり続けています。

―― 今回もそのために新たな技術を導入されたとか。

瀬下 そうですね。今の日本のアニメの中では、3DCGで構築されながらも見た目がセル画のように見える映像“セルルック”の技術が確立されてきていますが、うち(ポリゴン・ピクチュアズ)では、そのためのソフトウェア“セルルック・シェーダー”を独自に開発しています。

 僕自身、リンクス(80年代末にトーヨーリンクスから社名変更。その後リンクス・デジワークスを経て、現在はイマジカに事業統合)やスクウェア・エニックスなど老舗CG系の出身で、技術開発しながら画を作り上げていくという世代です。CGの黎明期ではソフトウェアは売ってなかったから自分たちで作るしかなかったんですけど(笑)。今も購入したソフトウェアに対して、2~3割くらいは自社で開発したり改造したりしながら表現に少しずつ手を加えています。

―― だから作品ごとに技術が進化しているわけですね。

瀬下 そうです。時間や予算などの条件を劇的に変化させるのが難しい上に、人間の熟練や根性にも限界があります。そこを手法・技法における創意工夫で毎回乗り切ってきているわけです。

―― 実は瀬下監督がかつてアートディレクターとして関わっていらしたCG映画超大作『Final Fantasy:The Spirits Within』(01年)を見たとき、当時の評価こそ低かったものの、私自身はここから映像の革命が始まると確信していました。あれから16年、それが間違ってなかったことを、瀬下監督をはじめとするみなさんの実績が証明してくれています。

瀬下 僕が『Final Fantasy』制作のために渡米したのが1997年で、当時30歳でした。今はもう50歳(笑)。あっというまに20年経ってしまいました。

―― 世界で初めてCGを本格的に導入した映画『トロン』(82年)や、クライマックスにCGが導入された出崎統監督のアニメ映画『ゴルゴ13』(83年)など、ああいった先駆的作品は再評価すべきだと思っています。さすがに当時は映像の落差に愕然としたものですが、今となっては歴史の1ページとして見るべきかなとも。

瀬下 『トロン』は僕がCGを始めるきっかけになった作品でした。『ゴルゴ13』は僕が89年に入社したリンクスの前身であるトーヨーリンクスがCGを担当しています。トーヨーリンクス自体、『ゴルゴ13』の山本又一朗プロデューサーや大阪大学の大村教授が主軸となり、イマジカの子会社として設立したものでした。『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(88年)のCGもトーヨーリンクスで作られました。あのときのCGディレクターだった林弘幸さんは今でもポリゴン・ピクチュアズの前線で活躍されていて、僕にとって憧れの先輩です。

―― まさに当時、そういった方々が日本のCG黎明期を支えてこられて、今の躍進につながっていったのだなと、改めて敬服させられます。

瀬下 そうですね。日本でCGを始めた最初の世代の方々の背中を見ながら、僕らも頑張ってきました。

―― 正直、かつてはCGで構築されたキャラクターには、画的になかなか感情移入しづらいところもありましたが、本作も含めて今はそういうことはなくなりましたね。

瀬下 かなり解消できているとは思います。ただ、まだまだもっとやりたい。実は今のCGだと“当たり前の日常”はまだ勝負できないんですよ。これは『Final Fantasy』に着手してから20年来ずっと挑んできていることなんですけど、なかなか難しいですね。でも、それこそ登場人物がひっきりなしにご飯ばかり食べているCG映画を僕は作ってみたい(笑)。ご飯を食べている画って実はすごく難しいんですよ。派手なドンパチのアクションシーンはCGの長所を用いて構築できる。でも、ご飯食べたりシャワーを浴びたり着替えたり、髪の毛をとかしたりといった日常の描写は本当に難しいです。だから手描きのアニメで日常を豊かに描いている作品っていっぱいありますけど、心の底からうらやましい(笑)。

―― つまり、究極的にはCGでホームドラマを構築したいと。

瀬下 そういうことです(笑)。異世界ではなく、日常のドラマを、3DCGという僕らの表現方法で描けるようになったとき、そこで初めて手描きのアニメのみなさんと同じ土俵の上に立てるのかなと。まだまだ足元にも及びませんけどね。でも、それこそ『サザエさん』や『クレヨンしんちゃん』のような、日常をきちっと描いた作品を3DCGで違和感なくやってみたいし、憧れでもあります。

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