富士屋カツヒト『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。』愛する子供の誕生は、フリーランスの地獄の門……

 育児マンガではあるものの、大抵のフリーランスは、読んでいるうちに吐きそうになる。たとえ、子供がいなくても、だ。

 富士屋カツヒト『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。』(白泉社)は、そんな恐ろしい作品だ。

 この作品は、エッセイと呼ぶには少々重い「実録」作品である。作者の富士屋氏はこれまで二度の連載のチャンスを得たものの、打ち切りという憂き目にあっている。冒頭では、週刊連載の苦しさを記してはいるが、ある程度の水準以上の実力の持ち主なのであろう。

 大抵のフリーランスというものは、そこそこの実力があれば、そこそこの相手と付き合えるものである。この富士屋氏も、連載の切れている間はバイトをしながらマンガを描いていて、生活の主な部分は妻に支えられていたようだ。

 そもそも、不安定な職業の男と付き合う時点で理解のある女性だから、結婚まで持ち込むのは正解である。でも、いかに理解ある女性でも一般的な幸せを求める。ここが難しいところである。

 妊娠を告げる妻の腹をキックして、作業にいそしむような人であれば、成功は半ば約束されているであろう。でも、そんな破天荒な生き様を突き進むには、今の世の中は狭い。そこそこ、家庭も上手く営みつつ幸せを掴もうとしなくてはならない。

 そもそも、そんな器用なことができれば、マンガ家になんてなったりはしない(ライターでも小説家でも、なんでも同様だと思う)。

 おまけに、そうした想定されるスタンダードな成功を収めた親の背中がちらつく。

 この作品でも富士屋氏は、お産を待つ間に悩み続ける。

「自分の親よりももしくは同じように、お金を稼げる気がしない」

 だいたい、フリーランスで仕事をしていると、3日に一度は、こんな気持ちになって壁を蹴ったり殴ったりしながら仕事を続けるものである。でも富士屋氏は極めて真面目な性格の様子。美術模型をつくる会社に契約社員として入社してしまう。

 いや、マンガを諦めたわけではないのだが、まずはお金が必要だったのだろう。それにしても、どう考えてもマンガを描くのには支障が出そうな仕事である。案の定、職場は合わず、毎日、失敗しては怒鳴られて、イヤミを言われて、うつ状態に。

 この職場での日々は、結構なページ数を占めているが、刃物も使う危険な職場である。マンガで稼げないために、しのぐための仕事としては、選択を間違いすぎだ。さっさと辞めればいいものを、富士屋氏は、自分ができないからダメだというヤバい方向に、自ら歩んでしまっているのである。

 これらの描写から感じるのは、子供が生まれて成長していくことに、多くのパワーが割かれ、マンガに使うべき時間も能力も削られていっているということではあるまいか。確かに、その削られた分に見合うだけの幸せはあるかも知れない。けれども、どちらが幸せなのだろうか?

 改めて、限られた人生の中で、絶対に得たいもの、やりたいことを整理したくなる作品だ。
(文=是枝了以)

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