――都会での仕事に憧れる20歳女子。就活全滅、限界集落寸前の田舎のよくわかんない独立王国の王様に就任させられて、今度は町のC級グルメイベントを計画中。IT大臣とおでん大臣のケンカップルっぷりに心がキュンとなっているたまごまごが、『サクラクエスト』(TOKYO MXほか)全話レビューお届けします。*ここまでのレビュー
■第8話『妖精のレシピ』おいしそうな物全部集めると茶色くなるよね
間野山町チュパカブラ王国のオリジナルC級メニューを作って、観光アピールしようと考えた木春由乃(演:七瀬彩夏)たち観光協会。ところがどうもいいメニューが浮かばない。イメージを広げるため、実家を蕎麦屋から、地元食材を使ったフランス料理屋に変えた熊野克己(演:羽多野渉)に話を聞きに行った。
前進したと思われた発表会、商店会の納涼会と日程が被っていたことが判明、商店会会長の織部千登勢(演:伊沢磨紀)は激怒。
収集がつかなくなり、由乃が責任を取ってイベントをやめようとしたところ、引っ込み思案な四ノ宮しおり(演:上田麗奈)が割って入り、うまくいく策を責任を持って練ると言い出した。
■叱ってくれる人は、優しい
待ってました、正論と正論がぶつかって、何もできなくなって、いやな空気になる展開。
狭い人間関係内のパワーバランスなど、「田舎ならでは悩み」が生々しくなってきた。
商店会会長の千登勢は、観光協会(てか丑松)と仲が悪い。由乃に対してきつい言葉ばかり投げかけるので、印象の悪いキャラだ。
しかし、8話を見たファンたちのTwitterでの反応は「商店会会長は口が悪いけど、正論」という意見がほとんどだった。
今回千登勢が、料理中の孫の織部凛々子(演:田中ちえ美)を、「優しいね凛々子は」とものすごくかわいがっている様子が描かれた。また丑松とのケンカ中にしおりが割って入り、自分が責任を取ると言った時「しーちゃん、あんたにできるのかい?」と、声のトーンを柔らかくして話しかけている(この時の顔が超いい)。
この「優しく子どもを見守る田舎のあばあさん」が、本来の彼女のようだ。
由乃に対して厳しい一番の原因は「よそ者」だからだろう。なんせ地元意識がめちゃくちゃに強い。
千登勢「あんたらのやってることなんざ、所詮自己満足なんだろう。あたしら地元の人間はね、そもそも頼んでないんだよ!」
しかし千登勢は、意味もなく由乃を罵ってはいない。理由をちゃんと言っている。
彼女は間野山のよいものを見せずして観光とは言えないという、自分の確固たる理念を常に言い続けている。納涼会についてムキになるのも、商店会のかきいれ時として、皆を守らねばいけないからだ。
現在、町で由乃のことを厳しく叱りつけるのは千登勢しかいない。
商店会の他のメンバーは、千登勢に丸投げ状態。我関せずで、叱りつけるよりずっと冷たい。
観光協会で働く職員たちも、田舎の「暗黙のルール」をわかっているのなら、先に教えてあげてほしかったなあ。
「田舎の人間は、メンツ潰されるのを一番いやがるもんなんだ」
「先に連絡する」というプライドを潰した……さすがに言われないとわからないんじゃないかな。
もし千登勢が今回怒らなかったら、由乃たちは「町民のことを考えていない」という失敗を犯していた。
千登勢の存在は、今は活動の枷と言うよりは、暴走を食い止めるストッパー。新しい意見を練るための対立意見だ。
彼女の言葉を、頭を下げて真摯に受け止める由乃。2人で会話ができる日がきたら、話は面白い方向に転がりそうだ。
■チュパカブラまんじゅうデラックス
門田丑松(演:斧アツシ)が以前作った「チュパカブラまんじゅう」は、地元の食材を使っており、とてもおいしいものだった。しかし今回勝手に改良した「チュパカブラまんじゅうデラックス」は、外国産を使っている。実況タイムラインもほとんどが「それはだめだろ」。菓子処の千登勢が怒るのはもっともだ。
ただ、丑松のやり方は観光業として間違いではない。「A町土産!」とうたわれる品が、製造地東京でしたー、なんてことは、今なら珍しくない。ネタの企画と方針の問題だ。
丑松「町は観光客によって鍛えられるんじゃ! まずは人を呼ばんことにははじまらんじゃろが!」
千登勢の「伝統を守る」保守的なスタイルは、町の芯を作る上で必要。
一方で丑松の「新しい風を入れる」「人を呼ぶ」考え方を混ぜていかないと、町は閉じたまま腐ってしまう。
超保守派だったしおりが、自ら「必ず見つけますから。商店会のみなさんも、私たち観光協会も、いえ、間野山のみんなが笑顔になれるアイデアを」と言い出したのは、このアニメの転機だ。
「このままを保とう」という町の空気と政治的関係を、内側から変える人物がついに出た。
■しおりちゃんと結婚する2つの方法
しおり「相手はやっぱり公務員がいいなー、休みの日には田んぼも手伝ってくれて……」「やっぱり普通が一番だよー」
理想の旦那さん像があまりにもド安定な、しおり。彼女は極端に変化を嫌う人物。7話での映画撮影の時、思い出の廃屋を守ろうとしていたのが印象的だった。
しおり「私はずっとこのままがいい。今のままで幸せだもん」
父「しおり、いつまでも変わらない生活なんてないんだよ」
両親、彼女よりも祖父母の方が、変化に対して寛容だ。農家をやめてもいい、と考えている。以前、田植え用パワードスーツを着て喜んでたりしましたね。
家の田んぼについても「続けられなくても暮らしていければよい」「娘達は自由に、自分の道を歩んでほしい」という結論が、四ノ宮家ではすでに出ている。
農業跡継ぎ問題と、商店会・観光協会の問題は、しおりにとっては同じ意味合いを持つようだ。
父親の「継がなくていい」は、悪く言えば諦念。観光協会の「イベント辞めます」も、同じ。
しかたないからどちらか諦める、ということを、彼女は受け入れられない。
しおりの「冗談、ですよね?」の、有無を言わせぬ笑顔、ゾクゾクしました。
天然で、めっちゃ優しくて、ゆるふわスタイルで、話やすくて、巨乳で、「だんないよ」で、実はメンタルが丈夫でバリ頑固。
なるほどこれは年上キラー。凛々子がしおりを、小悪魔ならぬ「サタン」と称するのもよくわかる。
今回に引き続き次回はしおりが中心になりそうだが、地味に凛々子が動き始めているのは注目したいところ。
引きこもりの彼女が人前にちゃんと出るようになれたのは、前回映画に出て自信がついたからだったらいいなあ。
(文/たまごまご)
『サクラクエスト』8話 年上キラーしおりちゃんの冷たい微笑みはまじサタンのページです。おたぽるは、アニメ、作品レビュー、小松未可子、C級グルメ、伊沢磨紀、地方創生、独立王国、斧アツシ、増井壮一、チュパカブラ、お仕事シリーズ、たまごまご、17年4月期アニメ、田中ちえ美、七瀬彩夏、安済知佳、サクラクエスト、横谷昌宏、J.C.STAFF、能登麻美子、羽多野渉、上田麗奈、P.A.WORKSの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
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