板倉梓『間くんは選べない』異常な共感性で魅せるこのクズな二股野郎は読者自身!  

 板倉梓氏は、すこし泥臭さも感じる可愛げなタッチとは裏腹に、けっこう心に突き刺さる作品を描くから、たまらない。中でも、「週刊漫画TIMES」(芳文社)に連載された『あかつきの教室』は、後半になるに連れて物語の深刻さが増していき、グサグサと刺してくるから必読の作品だとオススメしたい。

 また、ダラダラと連載することをよしとせず、物語を凝縮させて描く構成力にも評価する点は多いだろう。これまでの商業作品中、もっとも巻数の多いのは『ガール メイ キル』(双葉社)の全4巻。だから、手に取りやすいという理由でも、オススメすることができると思っている。

 そんな板倉氏の新たな連載作『間くんは選べない』(双葉社)の第1巻がようやく刊行された。板倉氏の作品の登場人物は、一見軽い感じに見せながら、けっこう重い悩みを抱えていることが多い。今回もまた、これはどうやって解決すべきなのか、読者も一緒に悩んでしまう展開が待っていた。

 物語の主人公・間は26歳の童貞青年。描かれる風景から察するに、印刷会社の営業職である。そんな彼が、惚れているのが担当先の出版社の里見さん。ようやく飲みに行く関係になった2人だが、間は告白には踏み切れない。大事な一言がいえなかったことで、帰り道も悩むばかりの間だが、意を決してLINEで思いを伝えるのである。

 でも、返事は来なかった。

 そんな彼が新たに出会ったのは、電車で酔っ払いに絡まれているところを助けた女子高生の野々宮である。後日、偶然再会した2人はLINEで、あれこれと話すようになる。

 そして、野々宮からの告白。突然のことに驚きながらも答えはOK。

 こうして、26歳の童貞の初彼女が女子高生。しかも、美大に進学してテキスタイルをやりたいと話しているあたり、オシャレだし印刷営業の間とは話題もピッタリ。

 でも、めでたしめでたしとはならない。

 初彼女かつ、女の子からの告白という悶絶するようなイベントを存分に味わって、電話を切った間。そこに、里見さんから告白を承諾するLINEが届くのである。

 かくて、童貞なのに、いきなり二股をすることになってしまった間。板倉氏の優れた点は、どちらを選ぶこともできずに悩む様を、きちんと描くことである。決してイヤミったらしくも、上から目線でもなく「なんと、人間という生き物は愚かなのか」ということを、サラリと表現するのである。

 もしも、読者がこんな美味しい(?)状況になったときに、すぐに究極の選択=どちらかを切るということができるか。いやいや、できるはずがない。きっと、悩んだ挙げ句に流されるままに、あれこれドツボにハマってしまうはず。そんな共感性の高い描き方が、なされているのである。

 そして、ドツボのハマリ方もビターな感じ。飲み屋デートの帰り道。里見さんからの「もう一軒行く?」という問いかけをトリガーに、間は自室に招き入れセックスへと至る。板倉氏のセックスシーンというのは、勃起するような実用性とは異なる独特のエロスがある。ここでも、その才能が惜しげもなく使われているのだけれど、この先に不幸が待ち受けているのではないかと思うと、安心して読めない。

 いかがだろう。わずかなページで、ともすればクズみたいな描き方になってしまうそうな、主人公の逡巡。それを読者自身のものとして共感させるのである。

 ホント、今回はどうやって問題を解決するのだろう。みんなが幸せになることなんて、できないんだな。そんな世の悲しさに早くも涙がこぼれそうである。
(文=是枝了以)

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