フフフ……ヤツは四天王最弱。いや、最弱は魔王のほうだった。遠田マリモ『魔王遭難中!!!~愉快な仲間達を添えて~』

 もしも、魔王が魔法を使えなくなってしまったら。そんな魔王には、存在価値などあるはずもない。それまでの力による統治の反動で、瞬く間に血祭りに上げられてしまうのではないだろうか。

 遠田マリモ『魔王遭難中!!!~愉快な仲間達を添えて~』(講談社)は、そんなもしもを描いた作品である。

 物語の舞台は、無人島。そこに体操座りで呆然とする魔王の姿から始まる。

 なぜ魔王が無人島の主となってしまったか。それは、別の時空で繰り広げられた天使との戦いゆえであった。

 魔王城に迫る天使たちを火炎魔法で撃退していた魔王であったが、限界を感じていた。というのも、天使王との戦いの魔力を失い始めていたからである。それを気づかれる前に、魔王は新たな手を打つ。密かに開発させていた転送装置を使い、人間界に向かうこと。そこで、人間たちを殺し魂を吸収することで魔力を回復させようというのだ。

 魔界の10秒が人間界の1日という時間のズレがあるのは、わかっている。だから、わずかな間に魔力を回復させて戻ってくることができるはず。そのために、魔王は四天王を率いて人間界へと旅立った。

 だが、そこには大きな計算違いがあった。魔界の者たちは人間界に無知だったのである。海という存在を知らず、海から塩が取れることすら知らない程度まで無知だった。

 しかも、装置は調整途中だったために、たどり着いたのは人間界の無人島。極めつけに、人間界では魔力を使えない。すなわち、戻ることすら叶わないということが、後からわかってしまったのである。

 そして、魔王の下僕として活躍するはずの四天王も、役に立ちそうになかった。知恵者のはずのバルディアは人間界の知識が皆無で、火の起こし方さえわからない。豪傑のゼシールは、そのバルディアのせいでロリっ娘にされていて、筋力も皆無の役立たず。召喚師のサイスも、何も召喚できるはずもなく単なるエロい格好をしたネーチャン(処女)というだけ。ただ、四天王最弱のはずだったクリアだけが獣人だったので、その腕力と生活の知恵でなんとか生き延びることができるかという具合。

 もはや、みんな役立たず。それに、魔王も存在価値のない無人島暮らし。諦念して欝っぽくなってしまう魔王だが、それでも四天王は忠誠を誓っていた。というのは魔王の統治によって種族間の争いはなくなり、実力次第で誰でも出世できるシステムをつくったことへの感謝は確かに存在していたからである。

 この作品、ありがちな出オチ系かと思いきや、けっこう練り込まれた物語の様子。単なるサバイバルマンガでもなく、登場人物(人じゃないけど)たちの成長譚として描かれていくようである。

 ラフな絵柄のギャグマンガでは終わらない深さに期待したいところだ。
(文=是枝了以)

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