――何も知らない少女が初めて食べたホットケーキは、とても甘くておいしかった。アニメの女の子の人生設計を考えるのが生きがいなたまごまごが『アリスと蔵六』を全話レビューします。*1話レビュー
■2話「アリスの夢」孫の早苗さんに甘えさせてください
紗名「お前もいいやつだ、どうしてやさしいんだ?」。原作:今井哲也(徳間書店)、監督:桜美かつし、J.C.STAFF制作のアニメ。頑固爺さん・樫村蔵六(かしむら・ぞうろく/演:大塚明夫)の元にやってきた、妙な力を持つ少女・紗名(さな/演:大和田仁美)を巡る物語。
第2話では蔵六の孫の樫村早苗(かしむら・さなえ/演:豊崎愛生)が登場。包容力溢れまくりの彼女。ネットではそのバブみに「ママ!」と叫ぶ人の声も。
回想シーンが多かった2話では時間軸がシャッフルされた原作を、かなり整理しなおしている。
研究所から脱出して追われていた紗名。蔵六の家で寝ていたところ、学校から帰ってきた孫の早苗と対面。蔵六に「ごはん食べさせてあげて」と言われた早苗、紗名をものすごくかわいがる。彼女が作ったホットケーキを食べた紗名は大満足。早苗を「いいやつ」と認定し、研究所をぶっ潰しにいくからついてこい、と言い出した。
1話の、謎を秘めた危うさはどこへやら、とてものんびり平和な日常回だ。
いかんせん紗名が能力を使って無茶をしても、早苗が全部受け流しちゃうので、全く大事にならない。
異常なまでの安定感、さすが蔵六の孫。南極に行っても笑顔。
原作のテーマの一つ、「自我」のあり方の話に、2話で早速踏み込んだ。
生まれたばかりの子どもは、名前が与えられることで「個」になる。言葉を学ぶことで、他人と自分の思考は同じではないことがわかる。次第に、家族、友達、学校、社会と認識できるようになっていく。
紗名はまだまだ赤ん坊状態。自分と他人の区別がはっきりしていなかったことが描かれる。
力を使えばわがままがなんでも通ってしまう彼女。「できない」ことがわからない。しかし研究所の外では、思った通りにいかないことが出てきた。その一つが、蔵六に叱られたこと。
知らないから、怖いと感じる。世界が「自分ではない」ことの実感だ。
紗名が本物のブタを大量に出してしまうシーン。紗名と早苗がブタにもみくちゃにされて息も絶え絶えになる様子は、まったくもって事後だったね。
ブタの増殖自体はギャグ扱い。しかしこれ、めちゃくちゃ危うい。紗名が「生命」を作ったことになるからだ。
もし生命は作れるのだとしたら、紗名自身の存在も、誰かに作られた可能性が高くなる。
生命をいじることは、多くのファンタジー作品で禁忌とされている。有名なところだと『鋼の錬金術師』の、母親を復活させるための人体錬成。失敗の上、等価交換で体を失った。『魔法のステージファンシーララ』では、絵に描いたものを出す魔法で、子ネコの絵を描く場面がある。ヒロインはネコをとてもかわいがるが、魔法を解いた時に、首輪だけ残して消えてしまう。
『アリスと蔵六』の原作では「私が作ったのか? じゃあこれ私がもう一回能力で消したら、殺したことになるのか?」と困惑するセリフがある。
アニメのラストでは、ブタが蔵六の職場にあふれるシーンが追加された。
紗名はブタを処分していないのだ。
2話の回想シーンで、幼い早苗がお墓を作っているシーンがある。
「これは虫さん、これは金魚、これはお父さんとお母さん」
死をよくわかっていない言動だ。
一方、紗名は早苗に、研究所が怖くなって逃げ出した理由を語る。
「でも見ちゃったんだ。研究所の奥のうんと下の方で、誰かがあいつらに何かされて、人間じゃなくされるのを」
「人間じゃない」というのは、おそらく「死」の表現。紗名の話を聞いて、早苗は彼女を抱きしめた。
「あのね、やっぱり似てるって思うんだ。私と紗名ちゃん」
紗名は漠然としたわからない何かに、恐れを抱く。早苗も、お墓を作っていた時の感覚は、いまだによくわかっていないのだろう。
「わからない=恐怖」の感覚。人間だかなんだか自覚できていない紗名に対して、自分も同じ感情を持つんだよ、と早苗は示す。
南極に飛んだ後、早苗は「南極かな、はじめて来た」と言った。紗名は一瞬ハッとなってから、笑顔で「私もはじめてだ!」と強調した。早苗と同じになりたがっている。
早苗に対しての「ママ!」という視聴者の反響。子どもは親にあたる存在から初めての安らぎを得るのだから、「大丈夫」と紗名に自我の安定を与えてくれた早苗の言動は、「ママ」であっていると思うな。
『アリスと蔵六』2話 増殖したブタにもみくちゃにされ、少女たちは息も絶え絶えのページです。おたぽるは、アニメ、作品レビュー、豊崎愛生、田村ゆかり、大塚明夫、V6、J.C.STAFF、アリスと蔵六、17年4月期アニメ、たまごまご、コミックリュウ、今井哲也、大和田仁美の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
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