【ヅカヲタ女医の「アモーレ!宝塚ソング」第10回】

退団された花乃まりあさまが歌う「顎で受けなさい」に、けなげに生きる女の、死への覚悟を学ぶ。

退団された花乃まりあさまが歌う「顎で受けなさい」に、けなげに生きる女の、死への覚悟を学ぶ。の画像22016年の花組公演ポスター。ビル役は明日海りお、サリー役は花乃まりあ。

 舞台は1930年代のロンドン。下町育ちの主人公・ビルが、実は伯爵家の血筋を引く青年であることがわかり、その後継ぎとして立派な紳士に仕立て上げられていく……という内容ですが、そんなビルのもともとのガールフレンドだったのが、魚市場で働く下町の女の子・サリーなのです。紳士としての教育を受け、立ち居振る舞いが変わっていくビル。そしてビルの周りの貴族たちから「身分違いだから」とビルと別れるよう諭され、つらい思いをするサリー。そんなサリーがミュージカルの二幕冒頭で歌う曲が、「顎で受けなさい」です。

ある時にみんなが言った ママとパパと兄姉達が
大きくなればお前もやがて家から出て行くだろう
そして言った こんなことを ママとパパと兄姉達が
教えておくが世の中で悔しいことが起きたら
受けなさい アゴで 何が聞こえてきても
知らんふりしてな 朗らかにしてな
そう言ったんだ ママとパパと兄姉達がその通り
肝に銘じていなけりゃダメと
言われたその通りだ
ちょっとした知恵 悲しみ受け流す知恵
アゴで受け止めてニガい顔して スマイル
考えりゃみんなくだらないことだ
ガタガタしても死ぬの待つだけ
生きてればどんな目に会おうとも
アゴで受け止めてニガ虫つぶして スマイル
ちょっとした知恵 悲しみ受け流す知恵
アゴで受け止めてニヤリとしてから スマイル

 不肖wojo、この曲を初めて聴いたのは、天海祐希さま・麻乃佳世さまのサヨナラ公演でもあった1995年月組の『ミー・アンド・マイ・ガール』でした。まだwojo高校3年生でした。夏から冬にかけ、ビデオが擦り切れるほど拝見し、12月には1回だけ、1階席の後ろのほうで実際に観劇させていただき……。嗚呼(遠い目)。ただしこの頃は、サリーのこの曲、あんまりwojoの心には響きませんでした。「顎で受けなさい」を聴くと、「サリーって強がりな女!」なんて思う、かわいくない女子高校生でした。でも今ならわかります。特にこの部分。

考えりゃみんなくだらないことだ
ガタガタしても死ぬの待つだけ
生きてればどんな目に会おうとも
アゴで受け止めてニガ虫つぶして スマイル

「生」と「死」がさりげなく織り交ぜられており、深く読めばゾッとさせられる気もいたします。サリーは苦しさのあまり「死」を意識しながらも、それでも懸命に「生きよう」としたのかな、と。でも、生きていればなんとかなる。普段の悩みのほとんどはくだらないこと。死ぬことに比べれば全然マシ! サリーの歌詞を、そういう意味を込めて読み直すと、アラフォーのwojo、スッと気持ちが楽になるんですね。

 何事も捉え方次第、なのです、きっと。

 サリー役は、初演のこだま愛さまから麻乃佳世さま、風花舞さま、彩乃かなみさま、羽桜しずくさま、桜乃彩音さまと続き、2013年には愛希れいかさま、2016年には花乃まりあさまが演じられました。その花乃まりあさまはこの2017年2月5日にご退団されましたが、そのさよならショーの冒頭で歌われたが、なんと「顎で受けなさい」だったんです! ええ、確かに花乃まりあさまが演じたサリーはものすごくけなげで、まさにこの曲にピッタリでした。こういうかわいらしい女性になりたい、と思わせられる、けなげなサリーNo.1、wojoの今年の目標にしたいです!

 しかしふと冷静になると、けなげな40歳女性って、我ながらあまりイメージがわきません。けなげって、若い人に使う言葉なのでしょうか……。そう思って「デジタル大辞泉」を紐解きましたら、「けなげ(健気)1 殊勝なさま。心がけがよく、しっかりしているさま。特に、年少者や力の弱い者が困難なことに立ち向かっていくさま。」ですって……。年少者! やっぱりそうなのか。もうwojoは定義上、けなげな女性になることはできないのですね……。

 仕方ないので気を取り直し、『夫が妻に何度も恋をする魔法の習慣』をしっかり頭に叩き込んで、不自然ではないレベルで、宝塚の娘役っぽさを身に着けたいと思います。

●wojo(ヲジョ)
 都内某病院勤務のアラフォー女医。宝塚ファン歴20年で、これまでに宝塚に注いだ“愛”の総額は1000万円以上。医者としての担当は内科、宝塚のほうの担当は月組。

 新しい薬剤が次々と開発され、既存の薬剤に新規薬剤を加えて治療成績を比較する、という試験がよく行われています。多発性骨髄腫という血液の病気に対して、1「既存の薬剤α+新規薬剤」、2「既存の薬剤β+新規薬剤」、という試験が世界規模で行われ、1、2それぞれに、ギリシャ神話の双子の「カストール」と「ポルックス」(ふたご座のもとになっているゼウスの息子たち)という名前が付けられていました。既存薬剤はそれぞれ異なるけれど、新規薬剤のほうは同一、という意味が込められているのだとか。

 そんな話をwojoに教えてくれた、治験などにも携わっている医師が、なんと最近宝塚にも興味を持ってくださり、「もし同じニュアンスで5通りの投与方法を試験したい場合は、flower(花)、 moon(月)、snow(雪)、star(星)、cosmos(宙)でやりましょう」とのこと。本当でしょうか……。

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