『おとなのほうかご』(イチヒ) 高度な構成力を駆使するシュールオムニバスギャグ 

 またまた、居酒屋を舞台にした雰囲気系の食べ物マンガだろう。とりあえず読んでみるか~と、まったく予備知識ナシで手に取った、イチヒ『おとなのほうかご』(メディアファクトリー)。

 まったく、食べ物系マンガなどではありませんでした。ホンワカした幸せ気分も、大人なひなびた味わいもありません。あるのは、ひたすらにシュールな変人たちの織りなす人間模様です。

 ちなみに、タイトルに「おとな」と入っているけれども、女子高生もたくさん出てきます。

 女子高生が出てくるならば、恋愛要素もあるんじゃないかと、読者は考えるでしょう。それは、当然あります。それもまた、シュールそのものです。

 無料のWebコミックマガジン「ComicWalker」への掲載で人気を得た本作は、ショートショート形式で綴られるオムニバスドラマです。どの作品も何組かの男女を軸に、異様に癖がある女の子たちに男たちが振り回される姿というものです。

 まず冒頭で登場するのは、美人の天野さん。

 居酒屋で知り合った先生と仲良く飲む関係になり、いい感じに男女交際も進展中……ではありません。天野さんは、美人だけれどポンコツ度も高め。乾杯する時には、勢いあまってビールジョッキの中身を先生にぶっかけたりしてしまいます。

 なるほど、絵柄の可愛さとのギャップ萌えを楽しむ作品なのか……と、思ったら、それだけじゃありませんでした。

 その居酒屋でバイトしている高木さんは、怖い顔をした店長のことが好き。なぜなら、店長は、怖い顔をしているのにゴキブリが苦手というギャップの塊なのですから。もちろん、恋は秘めたままですが、バイト募集の時に「男女不問」を勝手に「男性のみ」に書き換えたり、わかりにくーいアプローチをしています。でも、店長には「出会いを求めてるのか?」とさらなる誤解を生むだけだったり。

 そんな居酒屋に、先生が今日こそ天野さんのLINEを聞こうと意気込んで向かえば、受け持ちのクラスの児童・早川とばったり。美容院帰りで背伸びして「変わったところ気づかない?」とアピールしてくる児童に、先生は「ウザ」と先生とは思えない顔を……。

 このように、次から次へと少しずつ重なり合った舞台で、シュールな人間模様が連鎖していくわけです。物語のページ数も一話あたり最短で3ページと短く、テンポよくシュールな笑いが繰り広げられていくのです。

 そんな、ちょっと世間とずれた感覚の大人たちの姿を描く本作。重なり合った舞台で、次々と新しいドラマが展開していくスタイルのテンポのよさがウケているようです。様々な人間模様が絡み合いながら、次々と新たな舞台で別のドラマが展開していくスタイル自体は、決して目新しいものではありません。

 けれど、この手法、ともすれば、話の展開にまごついて読みにくい作品になってしまう危険性も秘めています。そうした困難を突破して、仕上げられている本作。作者の構成力の高さに裏打ちされた高度な作品ということに気づいた時、さらに作品の深みは増すでしょう。
(文=大居候)

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