アイドルの処方箋 第6回

5年ぶりのワンマンライブを終えて——姫乃たまはアイドルになれたのか?

 いつもより派手にドレスアップした状態で、「僕とジョルジュ」のメンバーと合流する。少し気恥ずかしい。人懐こいパーカッションのシマダボーイ君が私を見て笑い、唯一の女性演奏家であるキーボードの金子麻友美さんが「わあ」と声をあげた。

 やがてDJの音が大きくなり、次々と歓声があがった。

 開演を知らせるブザーとともに幕が開けて、フランス映画のキスシーンがモノクロで立て続けに映し出される。最初に佐藤優介さんが舞台に上がり、「僕とジョルジュ」のジングルをキーボードでループ演奏すると、続けて佐久間裕太さんが登場して、ドラムで思い切りの良いビートを刻んだ。彼らとバンド・スカートとして活動しているギターの澤部渡さん、ベースの清水搖志郎さん、シマダボーイ君も次々と舞台に上がり、ドラムを軸にそれぞれが好きな音でめいめいセッションを始める。

 私は、最も舞台袖の近くで演奏していた金子さんの横顔をしばらく眺めてから、舞台に上がった。春一番のように重たくまとまった歓声の中に、私の名前を呼ぶ声がいくつも聞こえた。

 2015年からずっとアンセムである『恋のすゝめ』に続いて、この日発売のアルバムから最新のアンセム『悲しくていいね』を初披露した後、『巨大な遊園地』まで演奏すると、ゲストミュージシャンの有賀幼子を舞台に招き入れた。

 突然現われたおばあさんに一瞬、会場がどよめく。彼女は私の祖母である。

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 何度かの交渉の末、「冥土の土産に」という理由で、この日発売された写真集、『号外 地下しか泳げない通信』で私が着用していたワンピースを着て、彼女は舞台に上がってくれた。私と手を繋いでキーボードの前まで進んだ祖母は、みんなに見守られながら、思い切り鍵盤を叩いた。

彼女の叩いた音がループし、さらにもうひとつ叩いた音がループし、音がどんどん重なって厚くなっていく。人はやがて子どもに戻る。私はあと何年、この人と生きていけるのだろう。子どもの落書きのように無秩序で、しかしすごいものを作りたいという勢いのこもった音が鳴り続ける。それに合わせて、再びバンドのセッションが始まり、祖母と入れ替わりでゲストボーカルの山崎春美さん(タコ/ガセネタ)が登場した。私たちは音に合わせて、ひたすらうねうねと踊り、時々歌をうたった。

 この時のことを、宗像明将さんは「東京インディーズバンドシーンの過去と現在が交錯した瞬間」とレポートに書いている。そこには、「文化的なコンテクスト(アイドル、東京インディーズバンドシーン、呪われたサブカルチャー)の交錯」が、私という地下アイドルのプラットホームに根付いて発展していたと、まとめられていた。

 私はそれを他人事のように、「わあ、なんかすごそう」と思って読み、これまたどうして、そういうことになったのかまったくわからないのだった。そもそも私は、あまり物を知らないし、何についてもあまり知識がない。

 私はただこの日まで、すべての人を受け入れて、その中で居心地のいい人と一緒に過ごしてきただけだった

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