『クズの本懐』最終話 おもしろクズたちが、ただの「つまんねえ人」になっちゃった……その尊さに打たれました

『クズの本懐』最終話 おもしろクズたちが、ただの「つまんねえ人」になっちゃった……その尊さに打たれましたの画像1『クズの本懐』公式HPより

 BPOに「高校生にキスさせんな」的な意見が寄せられているにもかかわらず、平気でキス以上のあれやこれやを描いてきたノイタミナ枠『クズの本懐』も最終回を迎えました。

 正直な感想を述べてしまえば、つまんねえぇーところに落ち着いたなと思うんですよね。超絶ビッチだった茜先生(CV:豊崎愛生)は天使のように何もかもを受け入れる鐘井先生(CV:野島健児)のおかげでビッチを卒業し、そのまま結婚することに。

 一方、その2人への片思いが破れた花火(CV:安済知佳)と麦(CV:島崎信長)は、それまでの歪んだ“契約関係”を破棄して、花火は「本物を探す」決意を固め、前に進む。麦に片思いしていたモカちゃん(CV:伊澤詩織)と、花火をレズ的な意味で好きだったえっちゃん(CV:戸松遥)も、それぞれ失恋を乗り越えることができた。

 それぞれのクズが「クズの本懐」を遂げることなく、「人間の本懐」ともいうべき克己と自立を経て、物語は終わりました。どうにも、みんなつまんない人になっちゃったな、という感じです。

 でも、だからダメな作品というわけでは全然なくてですね。

 傍から見ていてつまんなくない人、おもしろい人っていうのは、大概において本人はすごく苦しんでいるんだと思うんです。それらを単にキャラクターとして、娯楽の対象として消費するならば、この結末は実に娯楽性に乏しい物語ということになる。そして『クズの本懐』という作品は、過剰にエロシーンを描写してきました。作品そのものを娯楽として消費されること、つまりは「単なるエロアニメ」と見られることを、まったく恐れていませんでした。それは大変に立派な姿勢だったと思うし、それだけ物語の強度を信じていたということだと思います。

 単なるキャラクターとしてではなく、彼らに人物として共感してしまえば、このつまらなさは実に尊いものになります。彼らを苦しめてきた自意識や妥協や、孤独に耐えられない弱さや、歪んだ価値観や歪んだ人間関係から、ひとまず解放される様が描かれました。救済され、成長した後の人間というのは、きっと娯楽対象には適さないものです。だから、「みんながつまんない人になった」と感じたということは、この作品は彼らの「救済と成長」を描き切っていたということなので、全然ダメじゃなくて、むしろとてもいい作品だったと思うわけです。

 第1話、「遂げてみせるよ、クズの本懐──」というセリフで始まった物語のラストで、花火に「本物を探してる、そのために生きていく」と言わせています。何かのために生きていくと自覚している人は、もうクズではありえません。

 最終回で印象的なエピソードがありました。

 名前も覚えていないクラスの男子にいきなり告白されそうになった花火が、「ご、ごめんなさい。でも、ありがとうございます」と、丁寧に断る場面です。

 第1話でも花火は、知らない男子に告白されています。そして、「興味のない人から向けられる好意ほど、気持ちの悪いものってないでしょ」と言っています。

 茜先生が鐘井先生にちょっかいを出したのは「花火の悔しがる顔が見たいから」というだけの理由でした。しかし最終回で茜先生は、結婚祝いの場でブーケから花を一輪抜いて、花火に「ブーケトス」だと言ってぐいぐい押しつけます。ほかの女を見下すことでしか自分を保てなかった大人の女が、ほかの女の幸せを心から願う人になっていました。

 花火の寂しさにつけこみ、便利な性のはけ口として利用してきた麦は、最終回になっても自分にも花火にも、相手への執着が残っていることを感じています。望めば続けられるセフレ関係を、優しく断ち切るために「ごめん」と謝ってみせました。そして、もうキスもハグもしようとせず、花火といろいろな話をしました。

 こうした対比が丁寧に描かれることで感じたのは、物語の「節度」というものです。『クズの本懐』は、キャラクターたちに対して、とても「節度」を持って作られた作品だったと思うんです。クズたちを誰ひとりとして、雑に扱わなかった。これだけ大量に未成年のセックスを描いておいて「節度」を感じさせるというのは、なかなかこれは凄まじいクリエイティビティだと思うし、満足度の高い全12話だったと思います。

 本音をいえばね、天使のような鐘井先生が「実は20年来の制服泥棒でした」みたいなオチを期待してなかったといえば、それはまあウソになりますけど。
(文=新越谷ノリヲ)

クズの本懐

クズの本懐

原作も完結したよ

『クズの本懐』最終話 おもしろクズたちが、ただの「つまんねえ人」になっちゃった……その尊さに打たれましたのページです。おたぽるは、アニメ作品レビューの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

PICK UP ギャラリー
写真new
写真
写真
写真
写真
写真

ギャラリー一覧

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!