『クズの本懐』第11話 人は、変われる──? エロを隠れみのに、実直に語られた“喪失と再生”の物語

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 清楚なフリして超絶ビッチな茜先生(CV:豊崎愛生)は、夢を見ていました。

 歴代の彼氏が、怒鳴っています。先輩の家に泊まっただろ。おまえ、おかしいわ。彼氏がいても、ほかの男の家に泊まる。それは茜先生にとって、なんでもないことでした。だって断る理由もないし。だから茜先生は、彼氏たちがどうしてそんなに怒っているのかわかりません。

 茜先生は思います。特別なラインを超える昂揚も、侵食される快感も、喜びも怒りも悲しみすらも、わたしにはきっと縁がない。

 だって、当事者意識が薄いんだもの。

 そうしたら、夢の中で問いかけられました。

 向いてないのに、なぜ、続けるんですか?

 ノイタミナ枠で放送されてきた『クズの本懐』も、残すところあと2回。第11話は、茜先生が夢から覚めて始まります。夢の中で問いかけてきた男は、今、茜先生の隣にいる男でした。

 熱海へ向かう列車の中。茜先生は鐘井先生(野島健児)と一泊デートに向かっています。

 この男は、茜が「わたしはビッチ」「誰とでも寝る」「男好きはやめられない」と告白しても「やめなくていい」と言った男でした。茜には、その意味がわかりません。だからこの一泊デートで、この関係がなんなのか、ハッキリさせようと思っています。

 茜はもう、この男の前では清楚なフリをしません。ビッチであることは知られているし、取り繕う必要がないのです。そんな茜を、男は「親しみやすい」と言います。「学校でも、そうしたらいいのに」と。

 男は呑気なものです。宿に着いても、景色に感動したりしています。手っ取り早くヤッちゃって、男の真意を図ろうとベッドに誘う茜ですが、男はまるで乗ってきません。

 この男とは、一度寝ています。でもそれからずっと、この男は手を出してきません。デートには誘うくせに、寝ようとしない。思えば一度寝たときも、男は飲めない酒に酔った勢いだっただけなのかもしれません。

 男は、茜が大好きです。ひとり温泉につかりながら、今宵の決意を固めます。

 部屋で一緒に、星を見よう!

 メガネを割ってしまって、茜の顔がよく見えなくなっても「花も星も、この世の美しいものすべて、あなたを例えるためにある」なんて、国語教師らしくロマンチックなポエムを唱えたりしています。

 痺れを切らして、茜はもうストレートに聞くことにしました。

「やめなくていいって、どういう意味ですか?」「わたしが男好きなのを」

 好きでやっているなら、やめなくていい。男はそう答えました。

 茜は、相手が嫌がってくれないと嫌なんです。そして、それを嫌がらない男に初めて出会ったのです。にわかに緊張してしまいます。

「嫌がらないと、嫌われちゃいますか?」

 男が問います。こんな問いかけをしてくる男なんて、茜は知りません。

「そっか、でも、俺は好きです」

 何を言っているのか、茜は理解できないのです。

「どうしてそんなに、わたしなんかのこと──」

 ──好きなの?

 泣いちゃった。たぶん初めて、男の前で泣いちゃった。

 男が茜を好きになったきっかけは、亡くなったお母さんとイメージがかぶるから、という、ただそれだけでした。ただそれだけですが、すごく強く好きでした。

 だから、こう言うのです。

「好きの理由を説明するのは難しいですけど、俺は好きな人にはただ、元気に生きててほしいんです」

 男は、泣いちゃった茜のおでこに「ちゅ」してくれました。そして、やっと、抱いてくれました。

「うわー、こんなに、気持ちいいんだ」

 超絶ビッチの茜が、好きな人とのセックスで、初めて感じた快感でした。

 翌朝、男はプロポーズもしてくれました。「いいけど、めちゃくちゃ浮気しますよ」と、まだ自分が変わったことにすら気づけない茜でしたが、男が「いいんですか、やったー!」と、また無邪気に喜ぶものだから、悪い気はしません。自分が変わったか、この感情が幻か否か、それを確かめることにしたのです。

 自分では変わったことに気づかなくても、茜をずっと見てきた人間なら、それは一目瞭然でした。翌日、前から約束していた麦(CV:島崎信長)とのデートの日。麦はすぐに悟ります。

「きっと、最後のデートになる」

 麦が好きだった茜は、ビッチで打算的で不安定で寂しくて、そういう女でした。だから変わってしまった茜は、とても美しくて、まぶしく見えたのです。

「わたしね、結婚するの」

 麦はすぐに、「おめでとうございます」と言えました。本当に好きだったけど、好きだったからこそ、そう言えたのでした。

 麦は、茜を「変えてみせる」と思っていました。鐘井先生は「そのままでいい」と言いました。そして茜を変えたのは、「そのままでいい」と言った鐘井先生なのです。

 なんという、優しい回なのでしょう。自己承認欲求に支配されて自分が人生の当事者であることすら放棄していたひとりの大人の女が、自家中毒に陥って壊れきって他人も自分も同じように無価値なものであると開き直って生きてきた女が、正真正銘のクソビッチが、初めて人を好きになる様が描かれたのでした。

 最終回を前に、ここ2話は完全に茜を回復に導くために費やされています。キャラクター紹介の1番手は女子高生・安楽岡花火(CV:安済知佳)ですが、ここ2話は、ほとんど出てきませんでした。作品のテーマも茜先生に寄り添って語られました。

 確かにビッチの女教師が主人公ではいろいろアレでしょうから、実にたくらみに満ちた作品だと思います。アニメのほうも「エッロ!」「エロロロロ!」とわたしたち視聴者を勃起させておいて、それから賢者モードを見計らって、たいへん実直にひとりの人間の人生における“自己の喪失と再生”を伝えてきました。

 次回は最終回。宙ぶらりんになった花火と麦に、もうひと山あるのか、あるいはエピローグ的に事件のないまま収束していくのか。それはわかりません。ここまで原作コミックに忠実すぎるくらい忠実に、丁寧に作られてきた『クズの本懐』ですが、その最終巻となる第8巻が、明日25日の発売で、まだ読めていないからです。このあたりも、実にたくらみに満ちたプロジェクトだなと思います。

 それにしても、大人のビッチが無条件に愛してくれる都合のいい男に出会って改心するなんて、深夜アニメでやるにはいかにも間口が狭く、客層を読み間違っているとしか思えず、円盤のセールスが心配です。
(文=新越谷ノリヲ)

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