『姉なるもの』(飯田ぽち。) エロシーンは同人誌で……切り分けが尖ってる感が光る 

 各方面で、新手のおねショタとして絶賛されている、飯田ぽち。氏の話題作『姉なるもの』(KADOKAWA)が、いよいよ単行本になった。

 イラストレーターとしても評価の高い、飯田氏。この作品の面白さは、何よりもミステリアスな姉の魅力である。

 主人公は、孤独な14歳の少年・夕。彼は両親を失ってから親戚の家をたらい回しにされて、かなり悲惨な人生を送ってきた。そんな彼は、ようやく田舎の古い屋敷に住む、叔父さんの家に落ち着いていた。しかし、それでも平穏を得ることはできなかった。物語の冒頭で叔父さんは意識不明の重傷で入院をしているのである。

 再び、親戚を家を厄介者として扱われながら、たらい回しにされる日々が始まるのか……。

 そんなことを考えながら、夕は叔父さんが入ることを禁じていた蔵に足を踏み入れる。

 何やら、妙な呪文やらが張り巡らされた蔵の中で、夕が出会ったのは異形の美女。

「大事なものと引き換えに、望むままを与えましょう」

 そうささやく美女に、夕が望んだのは「お姉ちゃん」になってもらうことであった。

 こうして、異形の美女改めて「小夜」と名乗る姉と共に、ぎこちない初めての家族としての生活が始まるわけである。

 一種テンプレ的な展開なのだが、ここでグッとくる理由は、まずキャラクター造形の新しさだろう。この異形の美女・小夜であるが、出自としてはクトゥルフ神話である。ゆえに、その実態は禍々しい挙げ句に触手を何本も生やした存在だ。そんな怪しさを秘めているからこそ、美しさが際立つわけだろう。加えて、飯田氏は、あからさまなエロティシズムを抑えて描こうとしているフシが見られる。

 この作品は、もともとは飯田氏が18禁同人誌で描いていたもの。同人誌のほうは、イベントなどでも頒布されているが、そちらは完全に、おねショタの触手エロス。ゆえに、作品中にはてんこ盛りのエロスを、いかに物語で読ませるかを考え抜いたフシが見られる。そのテクニックのはてに、チラリズム的な興奮が得られるのである。

 また、1巻を通して舞台が夏に設定されていること。当然ながら、薄着だし、水濡れ系のイベントも起きるわけで、ちゃんと定番の展開も、無理なく押さえることができるというわけだ。

 そんなわけで、こちらの作品では、異形のお姉ちゃんとの、せつない雰囲気の同居生活を堪能。その上で、そのはてを見たいなら、同人誌を買えばよいという便利(?)な作品となっているのだ。

 この尖った切り分け。ちゃんと同人誌はAmazonでも販売しているあたり、読者へのサポートへの手厚さが光る作品といえるだろう。
(文=是枝了以)

姉なるもの 1

姉なるもの 1

公式が大手とはこのこと

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