まさかの続刊──『愛國戰隊大日本』の系譜を継ぐ全方位への煽り『テコンダー朴』

 まさかの第2巻が発売になった『テコンダー朴』(青林堂)。最初の掲載誌だった「スレッド」(晋遊舎)が、たった3号で潰れたために、伝説のトンデモマンガとなっていたこの作品。それが、2015年には描き下ろしも含めた単行本として刊行されたことで話題を集めました。

 そして、同年には青林堂の隔月刊誌「ジャパニズム」でも連載が始まり、いろんな意味で話題を集めるようになったという具合です。

 さて、出版元の青林堂といえば、反対者からは「ヘイトスピーチ」を振りまく悪の総本山みたいに見られている出版社。何かと反対者が「待ってました」とばかりに拳を振り上げる作品を次々と出版しております。

 何よりも、出版→サイン会→抗議→中止と、宣伝費をかけなくても反対者が勝手に宣伝してくれるという手法を編み出したあたり、思想の左右を問わずに見習わなければなりません。

 そんな出版社から刊行された『テコンダー朴』でありますが、この本のスゴさは「行動する保守」と呼ばれる人々からも「反ヘイト」を主張する人からも、どこか一線を引かれていところであります。

 その理由は明らかで、原作者である白正男氏と作画担当の山戸大輔氏のシンクロによって、神がかった全方向を煽るスタイルを生み出しているからです。

 一見、韓国や北朝鮮を褒め殺しにするマンガかと思いきや、実はそんなことではないのが、この作品の特徴でしょう。なにせ、今回は主人公に立ちはだかる強大な敵として「在日特権を糾弾する市民の会」とそのボスで「ヘイトモンスター」と呼ばれる桜木誠人とか、なんだかどこかで見たようなキャラクターが登場します。かと思えば「チョッパリをどつき隊」とかいう、やっぱりどっかで見たような団体と人々も登場するという具合です。

 それらが、この作品では完全にネタとして昇華されています。ゆえに、この作品をもっとも面白がっているのは、なんらかの活動を行っている人ではなく、純粋に作品として読んでいる人たちでしょう。おそらくは「こんなバカマンガ買っちゃったよ~」とか「ほんと、作者はバカだなあ~」というノリで読まれているのでしょう。もしも、この作品を通じて「朝鮮人ゆるせーん」とか「許すまじヘイトスピーチ」なんて目覚める人がいたら、ある種の病院をすすめるべきでしょう。

 この世間では、真面目に議論している人もいるであろう問題を完全にネタ化する手法は、実は目新しいものではありません。過去、後にガイナックスを創設するメンバーによって制作された「もしも、日本が弱ければ ロシアはたちまち攻めてくる~」の主題歌で知られる『愛國戰隊大日本』は、その代表格といえます。

 この作品は、80年代に盛んだったソ連脅威論を下敷きに全方向をおちょくった、思想性があるように見せかけて、まったくない作品です。こんな作品がつくられた背景として、80年代には「ソ連が攻めてくる」的な話題はけっこう盛んでした。なにせNATOの戦力では、核兵器を使わなけりゃワルシャワ条約機構には勝てないとか、NHKとかでも真面目に報じていました。若者雑誌とかでも、ソ連の新兵器云々の記事がやたらと掲載されていたくらいです。結局、実際のソ連の体たらくは、冷戦崩壊と共に明らかになったわけですが、リアルタイムでも「そんなわけねーよ」という本音が現れたのが『愛國戰隊大日本』という作品だったといえるでしょう。

 そのような具合に『テコンダー朴』は、オピニオン誌に連載されているのに、無思想なのが優れた点といえるでしょう。以前、取材したときに青林堂の中の人は「サブカルはもうダメですよ」といってたけど、この作品は完全にサブカル。さすが、中身は全部変わっても「ガロ」を出していた出版社だけあります。

 しかし、出オチかと思いきや、ちゃんとストーリーをまとめた第1巻に比べて、第2巻は難点もあります。それは、物語の構成。

 まず、第2巻の強敵「在日特権を糾弾する市民の会」は、巻の半ばでさっさと壊滅し、桜木も倒されてしまいます。そこから、新たなストーリーが始まり、そちらは半ばで「第三巻につづく」となるわけです。これは、次巻も買わせよう、あるいは掲載誌も買ってもらおうという戦略だと思うのですが……掲載誌は隔月刊だし、第3巻の発売は来年以降でしょう。いくらなんでも気を持たせすぎです。

 そして、掲載誌が隔月刊なのに週刊連載的な話の進み方も気になるところ。これも、作者の特徴なのですが、どこか全盛期の小池一夫先生風味な「おお、次回はどうなるんだ~」とワクワクしつつも「次回のことは、これから考えるんじゃなかろうか」という疑惑を感じさせるつくりになっています。隔月刊で、そんな余韻を持たせるのは、とても読者に厳しい仕様だと思うのです。何よりも、単行本化まで時間がかかったために、作中のネタがちょっと古くなっている感が。

 とりわけ、迷走しまくった挙げ句に自滅している「反ヘイト」を主張する人々は、現実の存在がマンガ以上になっていますしね。

 国民国家が続く限りは、いや、消滅したとて、自分が所属する以外の集団をネタにする表現というのは続くもの。この作品も、現在の社会を人々は腹の底ではどう考えているかを、えぐっている作品だと思いました。
(文=昼間たかし)

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