巨匠ティム・バートンは変わった? 変わらない? 変キャラ満載『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』

 世界的なベストセラー小説『ハヤブサが守る家』(東京創元社)を原作にした本作は、まさにティム・バートンにとってストライクど真ん中の企画だった。米国のフロリダで暮らしている高校生のジェイク(エイサ・バターフィールド)には友達がひとりもいない。ジェイクが唯一仲良くしているのは、祖父のエイブ(テレンス・スタンプ)だけ。偏屈老人のエイブだが、孫のジェイクにだけは優しかった。ところがエイブは「ここを離れて、島に行け」とジェイクに言い残して、急逝してしまう。その遺言を守って、ジェイクはかつて祖父が暮らしていたという英国ウェールズにある孤島を訪問。その島では1943年のある一日を繰り返し、永遠に年をとらない不思議なミス・ペレグリン(エヴァ・グリーン)と彼女が保護する風変わりな子どもたちとの出逢いが待っていた。

 いつも覆面を被って顔を隠している双子、体内に無数の蜂を飼っている少年、変わったところにもうひとつの口がある少女……とおかしな子どもたちが、ミス・ペレグリンの屋敷で一緒に暮らしている。中でもティム・バートンのいちばんのお気に入りキャラは、空中を浮遊するブロンド美少女のエマ(エラ・パーネル)だろう。エマはいつも鉛の靴を履いており、この重たい靴を脱ぐとまるで風船のようにふわふわと空へ舞い上がってしまう。ジェイクがしっかりと命綱を握っていないと、どこかへ流されてしまいそうな危なかっかしい女の子だ。ジェイクが持つ命綱によって、凧のようにエマが空を舞うシーンが、とても美しい。ジェイクの閉ざされていた心も、エマと一緒になって空に浮かび上がる。ジェイクとエマが恋に陥るのはあっという間だった。自由に空を飛ぶエマとそれを支えるジェイクとの関係性は、ティム・バートンが憧れる男女関係に違いない。

 1月30日、来日記者会見に登壇したティム・バートンは終始機嫌よさげだったが、頭は相変わらずの寝癖ヘア。きちんとヘアセットしていても、トークに夢中になっているうちに頭をなで回してしまい、髪がグシャグシャになってしまう。でも、コメント内容は売れっ子監督らしいものだった。

ティム「この作品の中で語られていることは、かつて僕自身が体験したことでもあるんだ。周囲から『この人は他とはちょっと違う』と思われている人は、芸術的な才能が豊かだったり、物静かな性格の人であったりすることが多い。変わっている人は、実はいい人なんだと思う。他の人とは違った奇妙なところがあってもいいんだよと、この作品をはじめ僕の作品は常に伝えているんだ。見た目はちょっと変わっていても、中身はフツーの子どもなんだよ」

巨匠ティム・バートンは変わった? 変わらない? 変キャラ満載『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』の画像3ミス・ペレグリン(エヴァ・グリーン)はハヤブサに変身できる上に、時間を自在に操る能力を持っていた。

 タイムリープという設定を扱ったファンタジー作品ということで、記者からの「どの時代に戻りたいか?」という質問に対しても、実に模範回答で応えてみせた。

ティム「僕は時間の管理がすごく苦手。今日が何日であるかも分からないほどんなんだ(苦笑)。どの時代に戻りたいか? いや、僕は今日を生きることに精一杯で、今という時間でベストを尽くせるように努めているよ」

『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(01年)などに出演した英国女優ヘレナ・ボナム=カーターとの間に息子と娘が生まれ、すっかり父親らしい言動が様になっているティム・バートン。公私ともに成功を体験したことで、初期作品『バットマン・リターンズ』(92年)や『エド・ウッド』(94年)に漂っていた暗い情念は次第に影を潜めるようになった。また、最近のティム・バートン作品で顕著なのは、『アリス・イン・ワンダーランド』やエヴァ・グリーンが出演した『ダーク・シャドウ』(12年)、実話もの『ビッグ・アイズ』(14年)の主人公たちは苦心して手に入れた理想のコミュニティーを守るために、命懸けで闘うということ。『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』でも気弱な高校生だったジェイクは、奇妙な子どもたちに宿るパワーを狙う邪悪な存在・バロン(サミュエル・L・ジャクソン)との全面対決に立ち上がる。理想の世界を手に入れても、その世界はとても壊れやすいことを、ティム・バートンはよく知っている。

 クライマックスでは、それまでミス・ペレグリンに頼りっきりだったジェイクや奇妙な子どもたちは力を合わせて、バロンと戦うことになる。このシーンでは、往年の特撮映画『シンドバッド7回目の航海』(58年)と『アルゴ探検隊の大冒険』(63年)で人気を博した骸骨兵団が子どもたちの味方となって大活躍する。オタクの魂、百まで。売れっ子監督になっても、2児の父親になっても、ティム・バートンの根っこの部分は変わっていないんだなと、妙にうれしくなる。
(文=長野辰次)

『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』
原作/ランサム・リグス 脚本/ジェーン・ゴールマン 監督/ティム・バートン
出演/エヴァ・グリーン、エイサ・バターフィールド、サミュエル・L・ジャクソン、ルパート・エヴェレット、アリソン・ジャニー、クリス・オダウド、エラ・パーネル、ジュディ・デンチ、テレンス・スタンプ
配給/20世紀フォックス 2月3日(金)より全国ロードショー
(c)2016 Twentieth Century Fox
http://www.foxmovies-jp.com/staypeculiar

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