見た目は可愛い幼女、でも中身は中年エリートサラリーマン!? TVアニメも放送中のコミック版『幼女戦記』レビュー

 今年1月からTVアニメ(毎週金曜深夜放送/AT-X・TOKYO MXほか)の放送がスタートしたカルロ・ゼン氏による小説が原作の『幼女戦記』(キャラクター原案:篠月しのぶ/KADOKAWA)。

 TVアニメ放送に先駆けて、東條チカ氏によるコミカライズ版(KADOKAWA)が連続刊行されているのは、ファンならばご存知だろう。1月26日には第3巻が発売されたばかりだ。アニメ第1話では、コミカライズ版とは違い、突然戦場から始まり、一気に単行本ほぼ1冊分の戦いが詰め込まれていたため、原作ファンやコミカライズ版を読んだことがある人の中には、戸惑いを覚えた人もいたかもしれない。 

 なおTVアニメ第2話からは、原作小説の冒頭部分から順にエピソードがアニメ化されているが、まだ原作小説を読んでいないという人、アニメ版の第2話以降を観ていないという原作ファンのためにも、今回はコミカライズバージョンの『幼女戦記』を取り上げてみたい。

 表紙を見る限り、確かに「幼女」である主人公のターニャ。しかし中身は現代日本の中年サラリーマンだった。冷酷に社員にリストラを言い渡すような、歪んだ性格は自負しているが、それも仕事だと割り切っている。エリートコースに乗って順調な人生を送るはずだった彼に災いが降りかかったのは、リストラを告げた元社員に線路に突き落とされた時──ではなく、その後の異空間でだった。彼が“存在X”と称する、どうやら神らしいものに楯突いたため、理不尽な転生をさせられてしまったのだ。「非科学的な世界で女に生まれ、戦争を知り、追い詰められるがよい!」と放り出された先は、魔法と小銃で戦争をしている世界だった。まさに「非科学的」である。

 しかし彼は「ターニャ」として生きてきた。9歳にして戦争の最前線に出され、素晴らしい戦果を上げて出世を続けるのは、根っからのエリート気質からだろうか。心の中では「楽をして出世したい」と思いながらも、戦いに貪欲な姿勢を見せて周囲からの評価を上げることにも余念がない。こんな幼女、本当なら嫌だ。しかし、見た目の愛らしさと言動の立派さに、周囲の軍人たちはターニャを尊敬し、「愛国心の強いお方だ」とか「なんという責任感の強さ!」と的外れな好感を抱く。コミカライズならではの、絵付きで内心を表現する手法のため、ターニャと周囲の人物の内心が、まったくもって斜め上ですれ違っているのがクリーンに見えるところが、非常にコミカルで面白い。そしてやっぱり、ターニャは可愛い♪

 アニメ版とは明らかに違う画風のヴィーシャは、単行本第1巻の最後にターニャの部下として登場するが、個人的にはこちらの雰囲気の方が好きである。例に漏れずターニャを素晴らしい上官だと思っていて、別部隊に配属された親友のことを思いながら戦う彼女は、どんどん勇ましくなっていく。アニメ第1話の「ラインの悪魔」のベースである、巻をまたいで3編で語られる「ラインの護り」回は、じっくり読み込みたい要素が満載だ。

 しかし、「エース・オブ・エース」と称されたターニャでも、軍大学の入学審議会では問題視される。多くの者はターニャを申し分のない素晴らしい軍人だと思っているが、そのターニャの人格に「深刻な疑義を感じた」者もあったのだ。ここでようやく、ターニャの恐ろしいまでのえげつないエピソードが語られる。もともと中身の彼の人格が歪んでいるのだから、見る者から見ればやはりわかるものなのだろう。シリアスな部分は徹底してシリアスに描かれているため、そのメリハリが一層面白みと深刻さを際立たせている。

 戦争に幼女を駆り出す世界なんて……という思いはあれど、それは“存在X”の仕業でもあり、ターニャの功績のせいでもある。ここは割り切って、11歳になったターニャがどのような大学生活を送り、戦場を駆け抜けていくのか、アニメと併せて楽しんでいきたいものだ。なにせ彼女は「幼女の皮をかぶった化物」なのだから──!
(文/桜木尚矢)

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