〜私は如何にして心配するのを止めてYUIMETALを愛するようになったか〜 第9章

BABYMETALの“メタルレジスタンス”を追う―その世界の片隅から、ど真ん中へ。

――アイドルにまるで興味なかった。なのにどうして今、私は17歳の女の子を観るために映画館で音と絵を全身に浴びているのだろうか。これは、33歳の男の“メタルレジスタンス”参戦の記録である。

1612_YUIMETAL.jpg(イラスト/竹内道宏)

■「まさに映画そのものだった。」

 それは衝撃映像だった。

 といっても、LiveLeakなんかで投稿されている衝撃映像の類ではなく、その正反対のものだ。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミスがまさかの神コスチューム姿。とんでもなくシュールな格好でSU-METALにサプライズの誕生日ケーキを渡そうとしている。会場はロンドン・O2アリーナ。壮大な2万人以上のキャパのステージでBABYMETALはレッチリの前座を務めた。現地のファンがYouTubeに投稿した映像の中で、顔面白塗りのチャドの登場を前にして3人が久々に“素”の表情を垣間見せたのだ。
 YUIMETALが驚いてピョンピョンと跳ねながら後退している。その輝きになんとまぁ、その。うわぁ。と、パソコンの前で言葉をなくす。こんな姿を見るのはいつぶりなのか。世界観を重視するBABYMETALで隠されている、子どもみたいな無邪気な笑顔。これをまさかレッチリのメンバーが引き出すなんて思いもよらなかった。

 2016年のBABYMETALは、このような衝撃映像が公式・非公式ともに数多く上げられた。
 4月のロンドン・ウェンブリーアリーナ公演。6月のイギリス/フランスのダウンロードフェスティバルへの出演。7月のアメリカ・APミュージックアワードでロブ・ハルフォード(ジューダス・プリースト)とコラボ。9月の日本・東京ドーム公演2Days。そして12月、レッド・ホット・チリ・ペッパーズとのUKツアー。
 これがたった一年の出来事とは到底思えない。YUIMETALがギターを抱えてお立ち台で煽るのも、飛び跳ねて笑顔を見せるのも、ただでさえ特別なのに。そのロケーションが驚きに満ちている。おいおい、ロブ・ハルフォードと一緒に歌ってるよ。レッチリのフリーがフォックスサインを掲げてるよ。戦争・テロ・処刑などと狂気に満ちた衝撃映像がネット上に溢れ返る昨今、それよりも3人が作り出す壮絶な光景を“衝撃映像”の概念としてすり替えてもらいたい。

 11月22日、新宿ピカデリー他全国各地の映画館で開催されたロンドン・ウェンブリーアリーナ公演のライブ映像作品のワールド・プレミア。
 映画館の音響設備ではBABYMETALのライブを再現できない。それはもちろん分かっていた。とはいえ、新宿ピカデリーの座席で魂を丸ごと持っていかれた。とんでもない映像を目の当たりにしたのだ。ウェンブリーアリーナはソールドアウト。1万人以上詰め掛けた観客の9割が日本以外の国籍。客席に浮かび上がる世界各国の旗。もちろんMCは一切ない。103分間休む暇なく爆音が鳴り続ける。どこを3秒切り取ってもどの3秒も衝撃映像で、劇場の暗闇の中、唯一煌めくその瞬間瞬間は没入感しかなかった。
 映画館で観る意味があった。まさに映画そのものだったのだ。
 ウェンブリーアリーナ公演の開催当時、日本時間深夜4時の時差を超えたライブビューイングを思い出す。ロンドンと東京との温度差をなくす、クライマックスの『THE ONE』で映し出される光景。まるで夢を見ていたかのように朝を迎えても、こうして証拠映像は残っていた。

 BABYMETALの活動は映像との親和性を感じざるをえない。最初に出会ったのが公式に上げられたYouTubeのダイジェスト映像で、その撮影・編集のセンスに真っ先に惹かれた。私は職業柄、映像業界の片隅にいる以上、強い意志を感じる編集に決して無視できなかった。それを制作したINNI VISIONのMACHI氏の功績は計り知れない。世界においてクリティカルヒットになったのは、紛れもなく彼が手がけた『ギミチョコ!!』のライブMVがきっかけだ。
 獰猛としたサウンドとは裏腹に、整然としたカット割り。激しい音楽を荒々しい映像で表すのではなく、3人のシンメトリーを美しく切り取ることで振り幅を感じさせる。一つでも間違えるとキワモノ扱いだろう。もちろんリアクションには理解と誤解が入り混じる。それでもYouTubeの即時性と瞬発力を味方に付け、その魅力を世界に発信するには充分すぎる作品だった。アカデミー賞級の賛辞が贈られてもおかしくない。あまり言い過ぎると『私は如何にしてINNI VISIONを愛するようになったか』になってしまうが、終盤の「プリーズ!」で満面の笑みを浮かべるYUIMETALのカットを差し込んだのは正解でしかない。

 もちろんライブの生の体験には敵わない。それでも映像の意味と役割を果たし、劇場で上映することで「映画」にさせている。
 そう感じるのは、BABYMETALが“他者愛”の表現だからだ。

■「他者愛には終わりが見えない。」

 今年11月、YUIMETALが愛してやまない能年玲奈が「のん」に改名後、初めて主演を務めたアニメ映画『この世界の片隅に』の上映が始まった。
 YUIMETALはさくら学院に在籍していた頃、アンケートの《憧れの女性有名人は?》に「能年玲奈ちゃん!」、《最近うれしかったことは?》に「能年玲奈に会えた夢をみた時」と答えていた。能年玲奈の出演作品は必ず映画館で観ると決めているYUIMETALに、この作品はどう映ったのだろう。もうすでに観たのだろうか、と気になって仕方がない。
『この世界の片隅に』は作り手の登場人物への愛情が掴み取れる。自己愛がまるで感じられない。映画という表現自体、キャラクターに息吹を与え、誰もがその喜怒哀楽に寄り添う魅力的な人物を作り出すことで名作を生み出す。この作品から、映画が他者愛の表現媒体であることを改めて感じることができた。

 BABYMETALはまさに他者愛の表現だ。メタルの復権を願い、メタルを世界中に広めるという大義名分がある。先人たちのリスペクトを忘れず、そのオマージュを散りばめてメタルへの入り口をグッと拡げていく。
 いわゆる“アーティスト”は自身で作詞・作曲をする。自己の内面世界を覗かせることで、聴く人はその主人公に共感する。歌詞の中で「僕」「私」の一人称に身を委ねる。
 それではBABYMETALはどうだろうか。たとえば歌の中でSU-METALが自室でネギを栽培して姉に叱られて「絶望さえも光になる」と希望を見出すわけでもなく、YUIMETALが大好きなトマトを「ちょーだいちょーだい」とおねだりするわけでもなく、MOAMETALがピザが食べられずに「胸の中に秘めた怒り」を燃やすわけでもない。
 が、こうして書いていると「何それ全部聴きたい」って願望が芽生えてしまうが、彼女たちは誰かへの愛情を尽くすことで自らの成功につなげていく。その様からはありふれた承認欲求なんて微塵も感じられず、他者愛を貫き通すことでオンリーワンの存在になっている。

 自己愛には限りはあっても、他者愛には限りがない。自分という人間は一人でも、世界には何十億人もの人がいる。今まさに、その“世界”が相手だ。世界各地にモッシュッシュ・ピットやウォール・オブ・デスなどの遊び場を作り、メタルを愛するプロデューサー・KOBAMETAL氏の誠実な想いが「キツネ様」というフィクションに乗っかり、3人が主演女優となって『BABYMETAL』というスペクタクル超大作を作り上げている。それは結果としてノンフィクションとなった。ロンドンで、アメリカで、東京で、世界各国で紛れもない事実と目の前に現れている。
 YUIMETALの笑顔には嘘偽りがないのだ。その愛を確かに感じ取っている。それを受け取った者がまた何倍にもして返している。ロブ・ゾンビ、ロブ・ハルフォード、チャド・スミスも皆、見た目が恐いのにまったくもって愛に溢れてしまっている。皆がBABYMETALに取り込まれている。ライブの最後で毎回コール&レスポンスされる「We are BABYMETAL!!」とはまさにこのことだろう。

『この世界の片隅に』は、世界数カ国での上映が決定している。メキシコでは400館もの劇場で封切られるなど、今後の世界的評価に期待が寄せられている。海外で知られていく“女優”同士、いつかYUIMETALとのんが顔を合わせる日が来るのだろうか。
さくら学院という世間的にあまり認知されていなかったグループから、その世界の片隅から、ど真ん中へ。
イギリスでレッド・ホット・チリ・ペッパーズとの共演が終わると、その後は韓国でメタリカ、日本でガンズ・アンド・ローゼズの前座を務める。トンデモ展開の映画のようで、まるでジョークのようだ。でも、これが現実なのだ。
 2017年のBABYMETALも終わりが見えない。
 YUIMETALは来年18歳になる。いつか必ず10代の時が過ぎ去り、大人になる時がやって来る。
 BABYMETALがさすがに30代までやり続ける表現とは思わない。この遊び場もいつかは消えてしまう。モッシュッシュ・ピットもウォール・オブ・デスもなくなる。ライブは一回きりの体験。でも、それが映像になると作品としてずっと残り続ける。
 YUIMETALがいつかおばあちゃんになった時、こうしてお孫さんに優しく語りかけるだろう。

「若い頃のばあちゃんはねぇ、世界を征服したんじゃよ。顔を真っ白く塗ったおじさんたちが目の前で飛び跳ねておったのじゃ。それはそれは面白くて、すぅ婆さんともあ婆さんと一緒に楽屋で笑っていたんじゃよ。」

 いつもトマトを食べてのんびりしているゆい婆さんの言うことを、お孫さんはにわかに信じられないだろう。
 だが、その証拠映像は山ほどある。これからも確実に残り続けていくのだ。
(文・竹内道宏)

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竹内 道宏(a.k.a. たけうちんぐ)ライター/映像作家
 監督・脚本を務めた映画『新しい戦争を始めよう』『世界の終わりのいずこねこ』『イカれてイル?』がそれぞれDVD発売中。最新作は難病を抱えたVJ・NAKAICHIを追ったドキュメンタリー作品『SAVE』。また、神聖かまってちゃん等の映像カメラマンとしておよそ700本に及ぶライブ映像をYouTubeにアップロードする活動を行なっている。
 2013年2月以来、BABYMETALに心を奪われてしまいました。命が続く限り、決して背を向けることなく彼女たちの活動を追いかけます。
たけうちんぐダイアリー(ブログ)→http://takeuching.blogspot.jp
ツイッター→https://twitter.com/takeuching

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