話題作『人間仮免中』から4年── 『人間仮免中つづき』異端の表現者・卯月妙子が描き出す“究極の愛の姿”とは?

 ボビーは既に60代後半、卯月も40代。普通のカップルであれば、倦怠期というか、落ち着いた関係になりがちな年代である。

 しかし、この2人の愛情は、全く衰えることがない。再会した駅の改札で抱き合い、涙を流し、お互いが生きていることを喜び合うのだ。

 その後の2人の生活も、決して楽なものではない。悪化する卯月の症状と、迫り来るボビーの老い。元々気性の激しい2人は時に激しくぶつかり合う。しかし、その根底には、お互いの覚悟と、確固たる愛情が流れている。

 ボビーが生きていることが心の支えである卯月と、「俺が死んでも生き続けろ」と言うボビー。寿命と病との狭間にあって、不思議と2人は幸せなのだろうと感じさせられる。

 何より特徴的なのは、この漫画の持つ明るさだ。

 冷静に考えれば、これほど暗く陰鬱な状況などそうそうあり得ないことなのに、彼女のタッチはどこまでも明るく、カラッとしている。

 以前ベストセラーとなった『失踪日記』(イースト・プレス)で、作者の吾妻ひでおが語っていたように、「リアルだと描くのが辛いし暗くなる」ということなのだろう。物語は楽しんで読んで、そこに隠されている現実の重みは、読んでいる人それぞれが感じればよいことだ。

 そうして感じること。もしかしたら、これこそが“強さ”なんじなゃないだろうか。何度も自殺未遂している人を捕まえて“強さ”というのはおかしいかもしれないが、何度となく自殺しようとしている人は、その同じ数だけその死を乗り越えてきているのだ。そして、辛い日常を明るく、ギャグにしながら描き出す。これこそが彼女の持っている何よりの才能ではないだろうか。

 本書の最後では、3.11のことが描かれている。最初に書いたとおり、津波の被害を受けた宮古市は卯月妙子の故郷である。その日の出来事は、彼女の中で大きなトラウマになっているという。ここでもまた、生と死について考えさせられる。たやすく「生きていることは尊い」などと言うつもりはない。それでも、少なくとも死なないということは大事だ。それだけは忘れずにいなければならない。

 それにしても、卯月妙子の作品は、なぜこんなに人の気持ちを揺さぶるのか。それは多分、彼女が誰よりも強い思いを持っているからだろう。

 故郷への思い、家族への思い、友人への思い、そしてボビーへの思い。「過ぎたるは及ばざるが如し」というように、思いが強すぎることは、逆に脆いことなかもしれない。でも、そんな脆さがあったとしても、強い思いを持って生きることは素敵なことだ。

 とても無様で、かっこ悪い生き方だったとしても、その命はきらめきを増しているように思うから。

 作中、ボビーは70歳の誕生日を迎える。

 激しかった2人の生活も、穏やかさが増していくのではないかと思われる。“夫婦”とか“介護”とか、難しい問題だけど、この2人を見ていると、本当に愛があればなんとかなるんじゃないかと思えてくる。

 愛があれば、生き続けていけるんじゃないかと思えてくる。
(文=プレヤード)

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