東方Projectの聖地をPRする「城嶺神社」の周囲に見える謎の影 霊感商法か!?

2016.12.08

「城嶺神社」のホームページより。

 これは、何かの事件の始まりなのだろうか。

 11月に毎日新聞が報じた「長野県北部の地震2年 白馬村の神社 ゲームのモデルPR」という記事を読んだ『東方Project』ファンは多いだろう。これは、2014年の地震で崩壊した長野県白馬村が、城嶺(じょうみね)神社が再建のために作品に絡めたPRを始めたというもの。

 これに先だって、インターネット上には「城嶺神社」という名前のTwitterアカウントとサイトが開設され、そこでは「東方プロジェクトの聖地巡礼の神社らしいです。ファンの方の来訪もお待ちしています」と記されている。

 また、11月下旬にはTwitterアカウントで「来年の城嶺神社例大祭(9月第二週当たりになる)では、コスプレイヤーを募集しますので、、、コスプレイヤーの方は、良かったら来てください」というツイートを行っている。東方の聖地であるという部分では、言葉は濁してはいるものの、作品を用いてPRを行っていることは間違いない。

 ところが、そうしたネットを用いた宣伝には疑念を抱かざるを得ない。筆者が、それを確信したのは、12月にこのTwitterアカウントで起きた出来事だ。城嶺神社のアカウントに対して「東方以前に神様を祀る社な訳ですから、例大祭でコスプレイヤーを募るのはあまりよろしくないのではないかと思います」と意見した人物を、いきなりブロックしたのである。

 こうした意見の是非は別として、いきなりのブロックとは、どういうことだろうか。ネットに明るくない、地元住民が対応に困って行ったと考えている人が多いのではないか。

 それは、違う。

 このTwitterアカウントや公式サイトを作成し、管理運営しているのは、地元住民ではない。岡谷市在住のS氏なる人物なのである。

 実は、この動きが始まる以前の10月下旬に筆者は、S氏よりTwitterのDMで連絡を受け取った。そこには「支援をしたいと思っているのですが、まずは現場に行ってみるという事で 行くのは行くので よかったらご一緒しますか? ZUNさんとかに 何かで支援いただけると助かるのですけどね、、連絡先が分からんです」と記されていた。

 まったく興味の沸く話ではなかった。S氏の「支援」の目的が読めなかったからだ。

 このS氏と筆者が出会ったのは、岡谷市にある、これも「東方の聖地」とファンの間で呼ばれている洩矢神社でのこと。この神社での、御柱祭の時にS氏から名刺を渡された。そこには「4K YouTuber」なる肩書きが記されていた。その妙な肩書きが気になって、連絡が来る以前から、S氏が普段はどのような活動を行っているのか調べていたのである。

 まず見つけたのは、S氏のアメーバーブログ。

「奴隷的な労働会社からの開放宣言 自由に生きて行く力を手にした日本人代表」なるタイトルのブログでは、自己啓発的なエントリーが今年の7月まで更新されていた。

 さらに、全体公開でほぼ毎日更新されているFacebookでは「道に迷う人を導くカンナギというお役目(天照大神に仕える身)の他に、アロマテラピー指導講師もしてます」という自己紹介が記されていた。とりわけ前半部分が気になり遡って調べて見たところ、勾玉に様々な神様を込めて頒布(販売)していることや、数多くの神様と話をすることができると宣伝しているものが見つかった。

 また、そうした信仰に絡む書き込みの間にも、仮想通貨・ビットコインの勉強会を開催していること。さらには、モルドコインなる仮想通貨を「もっと飛躍していくコインになると思いますので今のうちですね」と記しているものもあったのである。

 さまざま気になることがあるが、やはりもっとも気になるのは「かんなぎ(注:神薙のことと思われる)」を自称していること。なんらかの神主の資格を得るなり、修行などを経て、そうした活動を行ってるのであろうか……?

 そう思ってS氏に尋ねてみると「かんなぎというのは 資格でするものではないのです。そもそも能力がないとできません」という。

 ならば、どこかで修行をしたのかと、さらに尋ねてみると次のような回答が。

「人かどうかわからないような存在に 神社で奉仕するようにお願いをされました。そこから かんなぎとして 神社の中で神様とお話をして 神主がお困りごとを聞いてきた人のお悩みを神様にお伝えして、その回答を神主にお返しするという役割をしていました」

 加えて、自分の主は天照大神であると語り、その都合で素戔嗚尊とは話ができないが多種多様な神様と話ができ「ミシャクジ様とはよく話しています」とまでいうのである。

 さらに、最近のS氏のFacebookでの投稿を見ると天照大神に「私の声は今 お前と2人の巫女にしか届かない」「いろいろな神様をご紹介されて女神も沢山いましたし、誰か好みはいるのか?とお尋ねられたこともありました」といわれたという主張も。

 筆者には面白おかしく書き記す意図はまったくないが、何か首を傾げることばかりだ。そこに来ての異論への、有無をいわさぬブロックを行う事態。そこで改めて、S氏にさまざまな質問をぶつけてみた。

 まず尋ねたのは、突然のブロックの意図である。異論に対しては、そうした厳しい対応をするように神社の氏子を含めた意思一致や、業務の委託などが存在するのだろうか。

 これに対してS氏は「あまりにひどい質問が沢山あり基本として今は回答していません。東方projectの方からキャラクターの関係で動かないように言われています。これはZUNさんの回答を待っている状態です」と話す。

 どういうことかとさらに尋ねてみると、差出人不明の、神社を東方の聖地として扱うことに反対する手紙が届いているというのだ(これは、写真であるが筆者も現物を確認)。

 では「東方projectの方」とは、どういう協議を行っているのか。それについてS氏は「株式会社香霖堂」と協議を行っているとしながらも、詳細の説明は拒まれてしまった。

 さらに、Twitterで異論反論は即ブロックを行うのは「迷惑行為は基本ブロックです」「諏訪大社で言えばカエル神事反対の人みたいな感じです」として、神社の氏子などとの相談はなく独自の判断で行っていることを認めた。

 その上で尋ねたのは、過去に情報商材の販売や、現在でも仮想通貨を宣伝していること。

 前者については「過去の話であり、現在はやっていないし、詐欺商材をやっていたわけではないので、一緒にされるのは迷惑」と語り、後者については「仮想通貨については勉強もいけない買ってもいけない、ただ怪しいというのはジャーナリストとしてもう少し勉強したほうが良いような気がします」と語り出した。

 さらに「私は手助けしたい一心で動いている」として、筆者の取材を再建の妨害とまで語り出したのである。

 いったいS氏の目的が、どこにあるのかは判然とはしない。ただ、S氏は城嶺神社だけでなくさまざまな神社にもコンタクトを取っている様子だ。前述した、別の東方の聖地である洩矢神社でも、11月にTwitterアカウントと公式サイトなるものが公開されているが、これもS氏が作成したものだ。Twitterアカウントについては当初「洩矢神社」と名付けていたものの、現在は「洩矢神社の信者の一人」に変更している。公式サイトのほうは、もう少し謎で初宮参りや七五三、結婚式などの対応も検討していると記されている。

 この神社は、あくまで地域住民が管理する小規模な神社で、常駐の神主はいない。どうするのかと思いきやS氏は、関係者に「私がやることになるかも……」と、語っているという……。

 筆者の取材の直後、S氏は突如としてアメーバーブログを削除してしまった。さらに筆者宛に「ホームページとツイッターの管理を城嶺神社の氏子総代に渡すことにしました」と、連絡が来たのである。彼自身、間違ったことはしていないことを繰り返し述べていたのだが、何か思うところがあったのだろうか。

 すでに城嶺神社の公式サイトでは、御朱印の有料頒布を告知しているが、これも今後はどうなるのか不明である。
(文=ルポライター/昼間たかし http://t-hiruma.jp/

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