【実写映画レビュー】シリーズ最高の美しいラストは「正しい政治的選択」の末に――『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』

 だから本作の終盤で明かされる“黒幕”の魔法使いは、魔法使いが魔法使いであることを隠して人間社会で生きなければならないことに我慢できない。自分たちのアイデンティティが尊重されないことに激しく憤っている。そこで彼が目をつけたのが、「オブスキュラ」という生命体だ。これは、魔法使いが魔法を使うのを抑圧された時に生まれる怨念が実体化した寄生生物のようなもの。かつて魔法使いが人間に迫害されていたころに生まれたというが、概念的には『スター・ウォーズ』におけるフォースの暗黒面、『もののけ姫』におけるタタリ神が近い。黒幕はオブスキュラの圧倒的な破壊力を使って人間社会を打ち負かし、魔法使いにとって住みよい世界を作ろうとする。

 本作でこの黒幕はもちろん悪人として描かれているが、ひとつの疑問が湧きあがる。黒幕の思想は本当に“悪”なのだろうか? かつて人種丸ごと迫害された歴史を持ち、現在も肩身狭く息を潜めて暮らさなければならない者が、革命の狼煙をあげることが、そんなに糾弾されることなのか?

 本作の舞台がハリポタ本編の舞台であるイギリスではなく、移民も含めた人種のるつぼであるアメリカであるという点は、とても示唆的だ。物語冒頭、パン屋を開業したいと銀行に金策に行くも断られてしまうコワルスキーは、名前からしてポーランド系移民。現在は缶詰工場で貧しく働いているという設定だ。この時代、アメリカは経済発展の真っただ中だったが、非北欧系の移民流入は1924年移民法(ジョンソン=リード法)によって厳しく制限されていた。平たく言えば、移民は社会の邪魔者扱いだったのだ。特定国籍・特定人種の肩身が狭くなるのは、いつの時代、どんな場所でも起こりうる。

 当然ながら、人間との衝突を避けて平穏な社会を維持しようとする合衆国魔法議会は、魔法使い(という人種)だけの幸せを願う黒幕と真っ向から対立することになる。その構図は、90年後に同じ国で行われた大統領選を想起させはしないだろうか。世界全体の融和を掲げるグローバリズムと、自国第一を掲げる保護主義が真っ向から対立した、あれだ。それを踏まえると、劇中で黒幕が魔法議会の議長(黒人の女性だ)に向けて叫ぶ「誰を守るための法だ!」は、ひたすら重い。

 その対決は、口に砂を含んだような苦味をわずかに残して、雌雄が決される。どちらかの主張が通ればどちらかが退けられるのは、まさしく選挙と同じ。双方の政治的主張だけに耳を傾けるなら、一見してどちらが正しいとも言い難い。

 しかし物語が選択した結論は、おそらく選ばなかった結論よりも、きっと素晴らしいものだった。その証拠に、魔法使いのクイニーと人間であるコワルスキーの恋の行方を描いた終盤のくだりと最終カットは、今までのどのハリポタシリーズよりも美しく、切なく、希望に満ちている。ハリポタを卒業した大人こそ見届けるべき、最高のラストシーンではなかろうか。
(文・稲田豊史)

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