姫乃たまは不思議な人だ。
多才であることは言うまでもない。地下アイドルとして多くのライブをこなし、ライターとしてもバリバリ活躍している。DJや司会、トークイベントでも独特の存在感を放つ。
そんな彼女が、自身初となる全国流通のアルバム『First Order』(MY BEST! RECORDS)をリリースする。アルバムのこと、ライブのこと、ファンへの思いや将来像まで、たっぷりとお話を伺った。
──11月23日に初の全国流通ソロアルバム『First Order』が発売されます。この作品の製作には、どのくらいの期間かかったのでしょう?
姫乃 今回、3人の作曲家さんに作っていただいていて、藤井洋平さんと宮崎貴士さんに関しては数カ月ですね。作曲、作詞、録音までで半年もかかってないです。STXさんとは3~4年かかってるかもしれません。
──STXさんが作られた「ねえ、王子」は、かなり前の曲ですもんね。
姫乃 そうですね。「静かに静かに」「拝啓ジョーストラマー」「くれあいの花」も、かなり前からいただいてました。「ねえ、王子」に関しては、バックトラックも3回ぐらいブラッシュアップされていて、録音も数え切れないくらいやりました。もう、継ぎ足しを重ねた「秘伝のたれ」みたいな味わいです(笑)。
──『First Order』は、姫乃さんにとって、どのような意味合いのアルバムになっていますか?
姫乃 新しい始まりであって、区切りのような意味合いです。ずっと世に出せなかった曲もあったので、それがリリースできたというのはよかったと思います。STXさんに関しては、7年ぐらい一緒にやってもらっているのに、「僕とジョルジュ」「Friendly Spoon」「ひめとまほう」などのユニットが先に全国流通でレコードやCDを出してしまったので、非常に申し訳ない気持ちがありました。藤井さんと宮崎さんは、改名後から入って下さった方なので、新しい風が吹いてよかったと思っています。
──どの曲を聴いても姫乃さんに合っていると思うのですが、いずれも、姫乃さんのイメージで書いてもらっているということでしょうか?
姫乃 そうですね。どれも私の曲として発注しているので、そうなります。ただ、STXさんは付き合いが長いこともあって「試しに作ってみました」という曲もあったので、最初からものすごく想定しているというわけでもないかもしれません。
──Twitter(@Himeeeno)では、作詞に苦しんでいる様子などもつぶやかれていましたが……。
姫乃 単純に仕事が遅いだけなんですけどね(笑)。特に「マジで簡単なコネクション」は、STXさんがタイトルを決めてくれていたんですけど、歌詞はレコーディング当日にやっとできたほどです。
──詞を作るときは、テーマが浮かんで、そこから言葉を選ぶ感じですか?
姫乃 STXさんは、歌詞を書いてくることが多いので、それに合わせて書くことが多いです。私は着手するまでが遅くて、曲を聴きながら移動したりして、ふっと言葉が浮かんでくると、それに合わせて書いたりします。テーマより先に言葉が出てくることが多いです。
──「さかあがり」とか「言いたいことがあるんだよ」など、言葉の使い方が面白いですよね。
姫乃 「言いたいことがあるんだよ」は、結構悩んでいて、最後に出てきたのがこの言葉でした。「これいいじゃん!」と思って。
──姫乃さんが常々言っている「生きるのが苦手な人へ向けて」というのに通じる歌詞だと感じました。
姫乃 これはもともと「コミュニケーションブレイクダウン」という仮題がついていて、STXさんから「コミュニケーションをうまく取れない人の歌にしたい」って言われてました。それを聞いた時は「なんだそれ!」って思いましたけど(笑)。
──歌詞やテーマが、昔のフォークソングに通じるところがあるように感じます。
姫乃 フォークは初めて言われました。ただ、このアルバムの資料を送って、反響が返ってくるのは40代、50代の方が多いですね。私のファン層もそのあたりが厚いですし。
──アルバムの装丁も凝っているようで。
姫乃 もともとプラスチックで出したくないというのがあって、紙ジャケにしようと思ったんですが、これだけプラスチックが多く出てるということは、プラスチックが一番いいのではないかという話になって、「じゃあプラスチックでできる一番いい形にしよう」と思い、こういう形になりました。ぜひ盤で買って確かめてください。
──同じ日に「僕とジョルジュ」も、アナログ7インチを発売します。
姫乃 本当は夏に出す予定だったので、だいぶ遅くなっちゃったんですよね。でも、同日に出せるのはすごくよかったと思います。
──今は、ソロでの活動と「僕とジョルジュ」「ひめとまほう」の活動をされていますが、それぞれ意識的に違いますか?
姫乃 違いますね。「ひめとまほう」に関しては西島大介さんに一任してます。作詞作曲、どのイベントに出るかなども、すべてお任せです。「僕とジョルジュ」はコンセプチュアルにしてあって、前回は「フレンチポップ風のサウンドで恋の歌ばかりを歌う」というようにしていました。今は「僕とジョルジュ2」の製作中なんですが「人間関係」をテーマにしています。というのも『First Order』を作ったときに「人間関係」が凄い曲になったので、レーベル的にも推していきたいという話になり、その流れで僕とジョルジュもそれをテーマにしようということになりました。
ソロはアイドルプロジェクトなので、かわいい感じにしています。難しいことをしないで、ちゃんとした構成の曲が入っているということで作りました。作詞も、ファンの人が「自分に向かって歌ってくれてるんだな」と思えるようにしています。
──そして来年2月7日には、渋谷WWWでワンマンライブを開催します。どんなライブになりそうですか?
姫乃 楽曲はもちろん新譜からバンバンやるんですが、今回は会場も広いので、舞台装飾とか映像とかを凝ってみようかと思ってます。普段のライブではあまり豪華にしていないので、その罪ほろぼし的な意味を込めて。
──ライブタイトルの「アイドルになりたい」は、深い意味があるんでしょうか?
姫乃 実はこれ、『First Order』の仮題だったんですよ。ライブのチケットを発売するので、それを付けたんですけど、印字されてみたら「クソだせぇ!」って思って(笑)。
──曲の振り付けはついているんでしょうか?
姫乃 ついてます。ちゃんと振付師の方につけてもらってるんですよ。なるべく動かない振り付けでお願いしてます。
──では、あの「ペンギンダンス」も振付師の方に?
姫乃 いえいえ、あれは私が考えました(笑)。ペンギンが好きなもので。体型もペンギンに似てますしね。
──ホームページには「隙間からは一生でてきませんので、ご安心を」と書かれていますが、売れちゃったらどうしますか?
姫乃 売れないですよ。売れるという想定がまったくなされていないので。もし売れたら隠れます。売れたかったら1枚に13曲も入れないですよ。絶対10曲にする。あんまりファンのこと考えてると売れないのかも。
──姫乃さんは、ちょっとファンのことを考えすぎかも。ファンを大事にしすぎですよ。
姫乃 うちの現場は「幸せになって欲しい」という気持ちの応酬なので。
──もっと、我々ファンからお金を取るようなことを考えてもいいかも。
姫乃 それができたら、地下アイドルやりません。新宿でキャバクラ嬢とかやります。でも、生きづらいんで、今の仕事がちょうどいいし、ファンの人にも幸せになって欲しいですしね。
──ファンも、そのアイドルと似たような人が集まりますよね。
姫乃 地下アイドルのライブに平気で行けるっていうのは、控えめに言ってもまあ……ちょっと変わってますよね。出演してる私がわざわざ言うことでもないですけど(笑)。そういうところに集まるわけだから似た人が多くなりますね。あとは、最近ファン同士が仲いいんですよ。定例イベント始めてからですかね。あぁ、なんかファンのこと考えてたら幸せな気持ちになってきた。みんなかわいいぞ!
──姫乃さんは、ファンの人とある程度距離をとならきゃ、という考えはないんですか?
姫乃 ありますよ。
──あってそれですか(笑)。
姫乃 逆にファンの人が距離考えてくれてる。DMとか絶対送ってこないし、譲り合いの末イベントの時、最前列に誰もいなかったりします……!
──ガチ恋の人とかは難しいんじゃないですか?
姫乃 うちは、他でのガチ恋に破れた人とかが来ます。ガチ恋相談とかも受けますよ。そもそもバツ1の40代と、子どもが成人した50代のファンが多いんで。セカンドライフだと思われてますね、私。
──ライターのお仕事についても伺いたいんですが、姫乃さんの書かれた文章は、自分主体でありながら、どこか自分を俯瞰して見ているような視点を感じます。そのあたりは何か意識されてますか?
姫乃 あんまり自分のことに興味がないからですかね。私自身なんにもないんですよね。あとは、最近あまり怒らなくなったんですが、怒らないと、いろんなことが思い浮かばないんですよね。
──これから地下アイドルになる人の良い手本になりたい、という意識はありますか?
姫乃 私が? それはまったく無い……というかダメでしょ、私を手本にしたら(笑)。今から入ってくる子は、地下アイドル業界の土壌ができているから、すごく羨ましいです。大体何をすれば稼げるかわかるし、カルチャー的な要素も開けてきていますし。
──姫乃さんは、10年後って何をしてると思います?
姫乃 まぁ、インド人と結婚ですね。「旦那、今となりでカレー食ってる」とかツイートして(笑)。
──いいですね。地下アイドルとかライターのお仕事は続けてますか?
姫乃 できるだけ長く続けたいとは思っています。結婚しても続けられますからね。出産による引退かなぁ。あるいは三十路になったところで「あれ? 私何やってるんだろう」と我に返って引退。怖い。
──ステージではお酒をいつも飲んでますけど、なんでいつも酔っ払ってるんでしょう?
姫乃 恥ずかしいですよね、生きてるの。お酒飲まないとやってられない。人前で自分の書いた歌詞を歌うなんていうのも、素面ではちょっとつらい。
──私たちも、いい年してアイドルのライブに行くの恥ずかしいですしね。
姫乃 お酒があると仲良くなれる気がしますし、少しでも幸せになって欲しいですね。私のファンには。はぁ(ため息)。
──最後はため息ですか(笑)。ありがとうございました。
今まで、いちファンとして、彼女の魅力は十分知っているつもりであった。しかし、今回のインタビューを通して、私が思っていた以上にファンのことを思い、そしてファンの幸せを願っていることに感激した。
今回のアルバムが、多くの人の元に届き、ワンマンライブにもたくさんのファンが集まることを祈りたい。
(取材・文=プレヤード/写真=尾藤能暢)
●姫乃たま(ひめのたま) 下北沢生まれエロ本育ち。アイドルファンよりも生きるのが苦手な人へ向けて活動しいる地下アイドル界の隙間産業。2015年8月自身のユニット、僕とジョルュ始動、同年 9月初の単行本「潜行」を刊行、ともにロングセラーに。
■初の全国流通ソロアルバム!『First Order』(MY BEST! RECORDS)11月23日発売
■姫乃たま3rdワンマンライブ「アイドルになりたい」
日時:2017年2月7日(大安吉日)
会場:渋谷WWW(東京都渋谷区宇田川町13-17 ライズビル地下)
OPEN/START 18:00 / 19:00
ADV./DOOR ¥2,500 / ¥3,000
ACT:姫乃たま / 僕とジョルジュ
DJ 中村保夫(和ラダイスガラージ)
【インタビュー】「ファンの人には幸せになってもらいたい」姫乃たまが語る、ニューアルバムと将来像のページです。おたぽるは、アイドル、アイドル&声優、姫乃たま、インタビュー、プレヤード、First Order、僕とジョルジュ、尾藤能暢の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
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