犬上すくね『蛇沢課長のM嬢』これはSM版の『美味しんぼ』なのか? 

 これまであんまり興味なかったんですけど、SMな男女関係ってよいものですねえ。そんな幸せな気持ちにさせてくれるのが、犬上すくね『蛇沢課長のM嬢』(小学館)です。

 けら河内美々子(余談だが「けら」の字がPCじゃ表示できない……)は、ごくごくフツーのOLです。そんな彼女の上司・蛇沢課長は有名国立大学卒のエリート。イケメンだし営業成績はトップの超デキる男です。

 でも、そんな課長にはとてつもなく大きな欠点が、それはドMということなんです。社内じゃみんな知っていますが、営業成績も優秀なので、みんな「そーゆー人なんだなあ」レベルで気にもしていません。ただ、それは自分が当事者じゃないから。

 ところが、美々子は蛇沢課長に、ご主人様として見いだされ、当事者になってしまったのです。パッと見童顔の美々子は、どう考えても女王様とはほど遠い雰囲気です。本人もいたってノーマルだと思っています。

 だから、社内でも自分をご主人様のごとく扱ったり、ギャグボールまで買ってきて命令を求める蛇沢課長にはウンザリ。ところが、彼女は、何かがプツンと切れると豹変したかのように冷酷に奴隷の喜ぶ言葉を吐きかけてしまう二面性を持っていたのです!

 むしろ、こちらのほうが本人が気づいていない本性の部分じゃないかという勢いです。そして、美々子にひどい言葉を投げかければ投げかけられるほど、蛇沢課長は営業力に磨きがかかるのです。逆に、美々子に拒否されるとエリートとは思えない大失敗をしてしまうほど。

 今回発売された単行本第1巻は、2人の出会いのエピソードも収録されているわけですが、蛇沢課長は美々子に出会って初めて、自分のモチベーションを上げるものが何かに気づいたというのです。これぞまさに天の采配! 世の中、モチベーションを上げる方法を試行錯誤している人が多いというのに、羨ましいです。

 とにもかくにも、さまざまなトラブルが、美々子がSスイッチが入ることで解決するというのが本作の基本。『美味しんぼ』(小学館)は料理で問題を解決するわけですが、この作品は『THEレイプマン』(リイド社)がレイプで問題を解決していたのに近い問題解決系マンガといえるでしょう。どんな事態が起ころうとも、さまざまな問題が美々子のSスイッチだけで解決してしまうのです。

 多少でもM属性のある男子なら、ゾクゾクしながら読むことのできる本作品。問題は、どこまで息切れすることができずに連載を続けられるかということでしょう。なにせ、ネタとしては「出オチ」「一発屋」的な面が強いのですから。

 今後、どんなエピソードで読者を飽きさせない仕掛けにしていくのかが期待です。
(文=大居候)

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